□誰を思う
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真夜中のような暗闇に私は佇む。
しかし、月は出ているのだろうほの暗さ。
この程度の暗さなら、明かりがなくとも進める。
どこかの屋内。
浮かび上がるのは見慣れた配置の家具。
此処は、私の家だ。

そして、あの血溜まりの中に倒れ込んでいる人物。
引き裂かれた背中から深紅の液体が溢れ、真っ赤に染まっている。
私だ。
棄てられた私。

いや、違う。

アレは彼女だ。


「…ッ!?」


突然、目は覚めた。
部屋は暗く、一瞬まだ覚醒していないのではないかと疑った。
しかし、此処は現実だ。

布団に包まれた体は強張っていた。
手足の先端も痺れて動かない。
息苦しい。


「はぁ…」


なんという夢をみていたのだろうか。
荒いままの呼吸を整える為に、横になったまま大きく深呼吸をする。
冷え切った空気で肺が満たされていくと、次第に体の緊張も解けていく。


「大丈夫ですか?」


そんな心配の言葉と共に、頬を撫でられた。
心配の言葉をかけたのはやっぱり良く知っている人物な訳でして。


「……。」


布団に潜った時は私ひとりだったのに、朝方にはベッドにもうひとり増えているミステリー。
いっそのこと、鍵を作り替えてしまうべきだろうか。


「うなされてましたよ。」
「…それはベッドが狭いから。」


不満を述べながら、私はベッドの端から中央に寄る。
上掛けとマットの隙間からの冷気を避ける為だった。
中央に寄れば邪魔な人間の体が存在して、火のない部屋の中でも十分に暖かい。


「ホント、狭い。」
「でも、それが良い。」


そうでしょう?と問うように抱き枕にされてしまう。
悔しいけれど、彼の存在が悪夢の名残を闇へと追い払ってくれる。


「…少佐はなんで人造人間側についたの?」
「何を唐突に。それも、ベッドの中でするような話題ではありませんね。」
「訊いてなかったから訊いてみたんです。」


先日のキンブリーの真似をしてみた。
すると、闇の中でクスリと笑う気配がする。


「貴女をくれたから。ですかね。」


どうやら、まともに答えてくれるつもりはないらしい。


「寝る。」
「ええ、おやすみなさい。起きたら忙しいですからね。」


もうしばらく寝なさい、と優しく囁かれ、私はまた夢に戻っていく。
その途中思う。

寒くて忙しい朝が来るなら、このまま目なんか覚めなければいいのに。




 
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