□誰を思う
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翌朝からの仕事は、傷の男の捜索。
数日前にブリッグズの兵士が襲われ、身ぐるみを剥がされたらしい。

出撃するメンバーは、紅蓮と鋼の錬金術師とその弟。
プラス、マイルズ少佐の率いる北軍の兵士達。
そこに、ウィンリィ嬢が飛び入り参加。
そんな、小さな街なら一つくらい潰せてしまいそうなメンバーで、傷の男が最後に目撃された場所から近い廃棄された炭鉱の街にやって来た。



私は一人で真っ白な雪の世界に居た。
頭から爪先まで完全防備でやって来たというのに、防寒の意味が無いくらい寒い。
吐く息が嫌でも白くなる。
私は、首に巻いたマフラーを口元まで引き上げた。
そうする事で、多少の息苦しさと引き換えに暖を得る。
そろそろだろうか。


「寒…。」


―――サクッ

予想していた通り、背後で雪を踏む音がした。


「何をしているのですか?」


声を掛けてきたのは予想を裏切らないキンブリーである。
けれど、私は振り返らず作業を続けた。


「見てわかりませんか?」
「質問が悪かったですね。何故、貴女は雪玉など作っているのですか?」
「暇だからです。」


コロコロ〜っと手にしていた雪玉を転がす。
すでに、小ぶりな雪だるまを二つ作った。
三つ目の雪だるまを作り始めた今、はめていた手袋も湿気を帯び、緩やかに熱を奪われて指先が痛む。


「そうですか。」
「中央じゃこんなに積もらないから楽しいで、ぐえっ!」


息が詰まった。
後、上向きの力に無理矢理立たされる。
どうやら首根っこを掴まれたようだ。


「およ?およよ?」


そのままズルズルと引きずられ、室内に連れ込まれる。

連れ込まれたのは、捜索隊の臨時の司令部となった廃屋だった。
埃を被っていたストーブに火が入れられ、室内は外に比べてはるかに暖かい。

白い軍服を纏った兵隊達が、こちらを怪訝な目で見ている。
そりゃ、男が女を引きずってくれば不思議でしょうよ。


「およっと…。」


投げ出されるように古びた椅子に座らされた。
腰を浮かせようとすれば、白い存在に立ち塞がれてしまう。
彼は、そのまま私の座る椅子の背もたれに手をかけた。
まるで内緒話の体勢だ。


「アーデルハイド。暇なら、此処で本でも読んでいなさい。」
「本、持ってきてないです。」


キンブリーが笑顔で顔を近付けてくる。
まさか、と身構えている私の耳元で小声で言った。


「なら、私と二人っきりで時間を潰しますか?」
「遠慮します!」
「では、大人しくしていなさい。」


と言われて大人しくなんてしてませんのよ。


「寒いなぁ、本当に。やだやだ〜。」


ヒトの目がなくなった隙をみて、私は雪の世界に踏み出した。



 


何故、外に出てきたのか。
取りあえずの理由としては、少女の捜索。

少女が、ウィンリィが一人忽然と姿を消したのだ。
まぁ、普通に考えれば人質状態に嫌気が差しての逃亡。
しかし、土地勘も何もない場所でたった一人で逃げ出すだろうか。


「ウィンリィちゃんならやりそうだけど。」


だけど、誰かが手引きしたという方が可能性としてはずっと高い。
女王陛下が自分の兵に命じたのか、それともマイルズ辺りの独断か。
一番高い可能性としては、幼なじみと連れ立ってお出かけしたといったところだろうか。

色々と考えながら音のない雪の街を歩く。


「私の脱走も、そろそろバレてるだろうし。」


ウィンリィ嬢の行方知れず事件だけであれ程怒っていたのだ。
きっと彼は、この命令違反に割増で怒っているに違いない。
あの司令部で静かに沸騰している男を想像して、背筋がぶるりと震えた。


「い、今からでも戻ろうかな〜…。」


でも、ただ帰っても怖い目に合うだけだし、多少の戦果は欲しいところだ。


「おっと…。」


そうこうしている内に、ベースキャンプからだいぶ離れた所で一際大きな足跡を見つけた。
並ぶように小ぶりなブーツの足跡もある。
それも複数。


「隠すなり、消すなりしないとダメじゃん。」


雪の上に残る足跡を見つけてしまえば後は簡単だ。
静かに、物音を立てず獲物の後を辿っていけばいいだけの話である。



 
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