□吹雪に紛れて
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逃亡の為の劇は、吹雪によって終幕を迎えた。
少女と傷の男は仲間を引き連れ、白い闇へと消えていった。
装備の不十分な私達には追う術は無い。
それでもなお、彼は、キンブリーは自分から逃げた獲物の立っていた場所を長い間睨み続けていた。



猛吹雪の中、私達はベースキャンプまで戻ってきた。
戻ってきてからどんどんと吹雪の勢力は増し、今や窓の外は視界がゼロ。
建物の外には出られない。
しかし、これもウィンリィ達が逃げる時間を稼ぐには丁度良い展開である。

それからというもの、私はそれなりに長い時間、椅子にふんぞり返るキンブリーの脇に控えていた。
両手を腰の後ろに回し、立哨。
自然とこの立ち位置になっていた。
まるで昔の上官と部下の関係に戻ったようだ。
そして、この爆発寸前の爆弾の傍に居なければいけないという、身の危険をひしひしと感じる緊張感。
これもとても懐かしい刺激である。
…出来れば二度と味わいたくなかったナー。


「アーデルハイド。」
「は、はい。」


それまでブリッグズ兵と情報交換していたキンブリーが急に私に目を向けてきた。
あまりにも突然で、私の肩は無様に跳ね上がってしまった。


「私は、此処で大人しくしていろと言いましたよね?」
「はい。」
「では、何故私に断りもなくあんな場所に居たのですか。」


途端、私がバラすのではないのかと聞き耳を立てる気配が際立つ。
そんな露骨だとバレちゃうぞ。


「はい、少佐。此処でぼんやりとしていたら、いつの間にかウィンリィちゃんが居ないじゃありませんか。で、コレはマズい。でも、こんな野郎ばかりでは断りにくい理由で物陰に行ったのかもしれない。ならば、しゃぁない、私が探すか。と思った次第です。」


あの場所であった本当のやり取りをキンブリーに告げ口するつもりは無い。
だから、差し障りのない事実のみをつらつらと告げた。

しかし、そう告げながらも、自分馬鹿だなぁと心の底から素直に思う。
だって、正直このヒトを騙し通せる自信も無いのだから。


「それで、ふらふらと外へ探しに出たら、傷の男がロックベル嬢を人質に捕った場面に出会した。と言うのが顛末です。」
「そうですか。」
「独断で行動してしまい、申し訳ありませんでした。」


深々と頭を下げた。
しばらく顔を上げないでいると、小さく溜め息が聞こえた。


「掛けなさい。」


そう言った彼の声はほんのりと優しくなっていた。
どうやらお説教はおしまいらしい。

私は命じられたまま、傍に置かれていた椅子を引き寄せる。
そうして、それまでテーブルの上に置かれていたマグカップに手を伸ばしたキンブリーに出来るだけ寄り添って座ってやった。
私のその行動にキンブリーは驚いたようだ。
横目で疑問の視線を寄越したまま固まってしまっている。
しかし、キンブリーが訊ねてくるより早く解答する。


「お外はすんごく寒かったんですよ…。」
「そんなもの、自業自得ではないですか。」


思い付きでくっついてはみたものの、恥ずかしくて小声で答えた私にあわせてか、キンブリーも小声で返してきた。
それが少しおかしい。


「此処も寒いですし。」
「暖房が入っているでしょう。」
「なら、お豆の所に行く。」


言い切った瞬間、膝の上に置いておいた手の手首を掴まれてしまった。
それもかなり素早く。
驚いた勢いで手首を動かすが、膝の上から動かない。
落ち着いてみてから改めて動かしてみたけど、捕縛者の手は緩まない。


「…。」


トラバサミに捕まった獣ってこんな感じなのだろうか。



 
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