□豺狼
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暗闇の中、私はひとりだった。

寒い。
吐息は見る間に白くなり、吸い込んだ冷気が肺を締め付ける。
指先はかじかんで、自由には動かせない程に冷えきっていた。
足は凍り付いたかのように動かない。
それなのに、私を置いて白い後ろ姿がひとりで先に行ってしまう。

その存在を逃したくなくて、私は必死に手を伸ばした。
伸ばした手は幾度も宙を掻く。
ようやく引っ掛け、固い指先に力を込めて力一杯引き寄せ、なんとか捕まえる。
離れたくなくて、放したくなくて、巻き付いて放さない。
温かい。
生き物の体温だ。
この匂い、この手触りが大好きだった。


「…ふわふわ…ゾルフ…(仮)ィ……ァワ!?」


突然の痛みで、それまで閉ざしていた目をカッと見開いた。
飛び込んできたのはキンブリーの姿。


「目が覚めましたか?」


あれ、怒ってる?
かなり上から注がれる視線は温かい物とは正反対。
そう、床に寝そべる私を見下ろすキンブリーは怒っていた。
昨夜は機嫌が悪い程度だったハズなのに。
これは、着実に悪化している。


「おはよう、ございます。」


結局、椅子では寝にくかったので、昨夜は暖かい部屋寒い隅っこで小さくなって眠った。
だって、なんだかんだで私は紅一点。
野郎共の中に放り込まれた可愛い子犬。
間違いが起こらないとも言えない状況ではあったし。
けれど、私は壁に張り付くようにして寝ていただろうか。
いや、寝てない。


「…。」


どうやら、私はヒドイ起こし方をされたようである。
側頭部がジンジンと痛むし。
床を転がった形跡もあるし。
体に巻き付けていた毛布も剥がされ、その端はキンブリーが握っているし。
私は床にへたり込んだまま男を見上げる。


「ヒドい。女の子に対してなんて仕打ちですかァ。」
「本当に寝起きが最悪ですね、貴女は。」
「すぐ起きます…ッ!」


ちょっとふざけてみたら、思いっきり睨みを効かされてしまった。
これは相当ご機嫌が宜しくない。




 
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