□悔い
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再び目を開けば、知らない部屋の中に居た。
私は、高価とは呼べない柔らかさのベッドに横たわっている。
少しばかり消毒薬臭い。
けれども、暖かい部屋。
なかなか過ごしやすい温度だ。
てっきり、私は地獄行きだと思っていたのに。
それとも、火炙りとか釜茹でにされる前に目が醒めたのだろうか。


「…煮ても焼いても、美味しくないぞォ…。」
「気がついたか。」


低い男の声が聞こえた。
私をのぞき込むのは中央からウィンリィの護衛として来て以来、キンブリーについて回る軍人だった。


「…ハイン、ケル?」


撫でつけられた金髪に、眼鏡が特徴のオジサマだ。
そんな男が、どういったワケか私の横たわる寝台の脇に立っていた。
しかも、着ている物は軍服ではない。
そこら辺の男が着ている物と変わりがないように見えた。


「なん、あたた…。」


声量を上げようと空気を吸うと、胸が痛んだ。
胸部の痛みは、あの日のような身動きがとれなくなる焼けつく痛みでもない。
凶器に肉体を引き裂かれた時のような痛みだった。
その割に手足の指先はしっかりと動く。
けれど、体にはだるさとも違う浮遊感がまとわりついていた。
おそらく、相当長い時間眠っていたのだろう。

寝そべったまま見下ろされるのも気分が悪いので、体を起こそうとするが大きな手で止められた。


「動くな。あばらが折れてる。」
「…どこ、此処?砦?」


大人しく寝台に背中を預けた。
古びた茶色い天井に木目が見えて、此処は砦では無いことを悟る。


「なんで民間の家に?」
「これでも一応、病院だ。」


病院という言葉と、彼の視線で寝台がもう一台あることに気付き、首を横へ倒す。
どうしてか、隣のベッドの上にはエドワードが寝ていた。


「……マジでどういう状況?」


驚きはつかの間、思考がふわふわしてくる。
何か、麻酔の類でも打たれているのだろう。
徐々に瞼が重くなる。


「こっちが訊きたい。なんで、お前あんな所に落ちてた。」


問い掛けで一瞬だけ目が冴えた。
あの坑道内で体が宙に浮いた一瞬が脳裏に甦る。


「…ああ…。」


そうだ。
私は突き落とされたのだ。


「…飼い主の手を噛んだんだぁ…。」


私は再び意識を失った。




 
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