□献言告白
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「よし、見張り無し。」


右見て左見て、私は物陰から出た。

家の周りにはそれらしい人物は居なかった。
私が戻って来るとは思っていなかったのだろうか。


夜陰に紛れて我が家に入る。
ただし、表からでも裏からでもなく通りから死角になっている塀を乗り越えての帰宅だ。
誰だ、塀の先端をこんなにトゲトゲにしたのは。
私だ。



先日、グリードに言われた言葉が胸に刺さり、寝ても覚めても忘れられなかった。

そんなたった一つの言葉に感染症のように浮かされ、気付けば私は中央市街地に舞い戻っていた。
戻ったところで、顔を合わせる事なんて出来ないのに。
でも、どこかで少しでも気配の残っている場所に居たかったのかもしれない。


家の鍵を使い玄関の扉を開け、帰宅を果たす。


「出掛けて以来、誰も入ってない…かな。」


出立してから久しい家の中の空気は埃っぽかった。


「地下から出て来て以来、ほとんど掃除出来てないからなァ…。」


床にも家具にもうっすら埃が積もっていた。
試しに棚の上に走らせた指先に綿が固まった。
同じく床にも人間が出入りした形跡は見当たらない。
もしも、我が家を巣にされていたらどうしようかと思っていたが、そんな事はなかったようだ。


「…まぁ、鍵渡してるわけじゃないし。」


とりあえずの安全を確保して、自室を目指す事にした。
しかし、勝手知ったる我が家と言えども真っ暗闇では行動し難い。
腕を伸ばし、玄関の戸棚にランタンを取る。
非常用にと用意しておいたものだ。
しばらくの間手入れなどしていなかったが、僅かながらオイルが残っていた。
ランタンの動作確認を済ませた後、マッチはどこにしまったものかと戸棚を漁る。
マッチはすぐに見つかった。


「あった、あった。」


指で摘んだマッチ棒を擦る前に、外に面した窓へと寄る。
もし、この家を監視されていた時の為に用心は必要だ。
煌煌と明かりは灯せない。
けれど、庭などには人影らしきものは確認出来なかった。
それでも一応慎重にマッチを擦り…


「………あれ?」


もう一度、擦る。
だが、マッチがしけっていて火が着かなかった。
まさかマスタングの呪いか!?




結局、火のないランタンを手に提げ自室へ向かった。
机の引き出しにもマッチはしまって置いたハズである。
記憶通りに引き出しにあったマッチは、無事に役目を果たしてくれたので助かった。
光を放つランタンのネジを回し、出来る限り火を細く絞る。

薄明かりに照らされた室内を見渡す。
此処も空気はよどんでいた以外異常なし。


「本、カビそう…。」


クローゼットを開けた。
内心は窓を開けたかったのだが。
ハンガーにひっかけてある服を適当に手にする。
まずは着替えの徴発だ。
はじめにひっ掴んだ物は昔買った白い服だった。
白は却下。
もうしばらく野宿な生活が続きそうだから、動きやすくて汚れても構わない服がいい。


「さぁて、どれにしよーかなー。」


やっぱりまだまだ私も女子である。
しばらく振りのオシャレを楽しむ感情に振り回され、どれにしようかと散々悩んでしまった。
白黒青…。
服をとっかえひっかえしている最中、灯りに浮かび上がった赤い色に目を奪われた。
昔貰った赤いドレス。


「…もう、いっそのこと気合い入れてドレスでも着ちゃおうかしら。」


丈の長い裾をひらりと翻して、戦場に立つ女。
ある意味格好良くない?



 
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