□狂恋に囚われ
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肌寒い夜の空気の中、エドワード達の留まっているスラムの町を目指していた。
万が一を考え、中央の街を歩き回っていたが、流石に歩き疲れた。
立ち止まり、休息の合間に不意に見上げた暗い空に星が一筋の線を引いて消えていく。
私はその流れ星に、

―――時間を戻したい

などと願ってしまった。






やいのやいのとプライドに破壊された町の修復を手伝っていたところ、傷の男やマルコーなど冬の廃坑で別れた人間達が合流した。
あの憎たらしい傷の男を目にして腸が煮えかかったが、歯を食いしばって無視を決め込んだ。
なのに、そのグループに居た合成獣のおっさん共はヒトの顔を見るなり、悲鳴と敵意を私にプレゼント。
これには我慢できず、失礼な!とギャアギャアとやり合っていたら、

「静かにしろよ、動物園!」

なんて叱られてしまった。
私、まだノーマルなのに…。



皆から離れた場所で私より小さ…、小柄な後ろ姿が身に纏う赤いコートの裾を掴んで、これから戦場に向かう少年を捕まえた。
エドワードは律儀に立ち止まってくれる。


「んだよ、姉ちゃん。」
「いやね、あのさ、もしも、さ…。」
言葉が詰まる。
今から命を賭ける人間に対してこんな身勝手は言えない。
言ってはいけない。
でも、対峙する可能性の高い彼には頼みたい。
すると、まだ何も告げていないのに少年は、


「分かってる。俺は殺さねぇ。」


そう断言した。
嘘でも欲しかった答えに涙が幾筋も頬を伝う。
途端に少年の険しい表情がオロオロと狼狽える。


「な、泣くんじゃねぇよ!」
「泣いてない。」


泣き顔を隠そうとして垂れた頭に一発貰った。


「姉ちゃん、俺より年くってるクセにっ。」
「…右手はやめようよォ。」


違う意味で涙が出た。





 
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