□ツナグモノ
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その日、私は家族の眠る墓石の前に座り込んで、ぼんやりしていた。
墓の主の埋葬は済んだばかりである。

私が留守にしていた、たった数時間で皆亡くしてしまった。
大切にしてきたモノを全て無くしてしまった。
その代わりに、頭の中をとある生物を造る構成式がぐるぐると回り続けている。
手足わ縮こめ、身を丸めて止まっていないと、行動に移したい衝動に体を乗っ取られてしまいそうで恐ろしかった。
しかし、体は抑えられても思考は足を止めない。


「…材料、どうしよ…。」


魂の情報の欠片は確保出来ている。
素体の代用品には生きた物を使えば一番簡単に済むのだろう。
だが、原型を土の下に葬った今は行動には移せない。
この実験は、一度でも手を出せば完成品に巡り会うまで止められなくなってしまう。
更に、失敗の度に私は誰かを殺し、完成品に似た誰かを失う事になるだろう。
そんなのは嫌だ。


「薬剤だけででも出来るかな。」


もう、考えたくない。


「アディ。」


振り返ると、青い軍服を着込んだヒューズが立っていた。


「ほら。」


ヒューズに差し出されたのは大きめな鞄だった。


「私の旅行鞄じゃん。」
「これ持ってロイの所に行け。荷物まとめておいてやったから。」


何を勝手に、と言い返すのも面倒だった。
手を伸ばし、取りあえずで受け取った鞄はずっしりと重かった。


「俺はついて行けねぇが、話はつけておいてやる。今、列車の切符も手配してるしな。」
「家に居る。」
「駄目だ。」
「嫌だ。行かない。」
「命令だ。ヤード少佐相当官。」


ピシャリと窘められた。


「…横暴だ。」
「横暴は上官の特権だ。それからな…絶対やるなよ。」


彼が今禁じた行動は、襲撃のあった夜に私がやろうとしていた錬成の事だろう。
ヒューズに気取られぬよう墓石を確かめた。
あの夜ヒューズの邪魔さえされなければ、この墓石は必要なかったのだ。
今、こうして構成式に捕らわれる事もなかっただろう。


「わかってる。って、何その指?」


私の目の前のヒューズは、鼻息荒く右手の小指を立てている。


「指きりだ。」


お前も手ェだせ、とヒューズが促してくる。


「…ヒューズ君は私をエリシアと同格にしてるな?」
「馬鹿野郎!エリシアの方が百倍カワイイに決まってるだろ!!」
「馬鹿親…。はいはい、指きりげんまーん。」


こうして、コイツと交わした約束は数多い。
破らなかった約束も数多い。
だからか、不思議とこの後から考えはしても、実行しようとは思わなくなった。




 
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