□錬金術師の語らい
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国家錬金術師殺しが出たという噂があった。


だが、それは中央で起きた事。
自分も注意せねばと思いながら、どこかで他人事のように感じていた。
対岸の火事というやつだ。
しかし、向こう岸で被害にあったのは、私の古い友人だった。


彼女が私の元にやって来たのは、その被害のせいであった。
例の国家錬金術師殺しの襲撃を受けたらしい。

東部を訪れた日のアーデルハイドは憔悴しきっていた。
やつれ、隈をつくり、感情が全くと言って良いくらいに消えていた。
見る影もないとはあの事だ。
とても話を訊ける状態ではなかった。
彼女を送って寄越したのはマース・ヒューズ。
彼は我々共通の友人だ。
なので、私は彼から一通りの事情を聞くことにした。

現場は彼女の家。
通報を受け駆けつけたのはヒューズ達だった。
彼の言では、かなり酷い惨状だったらしい。
家の中で生きていたのは、アーデルハイドだけ。
たまたま家を空けていた数時間で、彼女は家族を全て亡くしたそうだ。



以来、司令部に居着くようになったアーデルハイドは、次第に元気を取り戻していった。
今は昔と変わらず笑い、何事も無かったかのように過ごしている。
だが、周りにヒトが居なくなると、どこか遠くを見つめていた。
その瞳が、まるでガラス玉のようなのだ。
何か良くない事を考えているのではと、酷く不安になる。






 
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