□錬金術師の語らい
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外は雨が降っていた。
生臭い死臭が立ち込める室内。
ここが外ならば、雨が臭いを洗い流してくれただろうに。
私は隠された亡骸を眺めながら、数日前にアーデルハイドとした会話を思い出していた。



「ねぇーロイ。小さいの来てるんじゃないの?」


時間は昼過ぎ。
白い帽子とコートを羽織り、寝ぼけ眼で司令部に登庁したアーデルハイド。
彼女は部屋に入って、開口一番にそう言った。


「…。」


先日、列車襲撃事件が起きた折、

「お腹イタイから帰って寝る。」

と、彼女は軽快な足取りで帰っていってしまった。

貴様それでも軍人の端くれかっ!?
と怒鳴りたいのを何とか堪えた。
コレが居たところで、役に立つような事は起きなかったのだから。
寧ろ、居たら騒ぎを大きくしてたかも知れぬ…。
いや、絶対そうだ。
笑いながらドカーンッとか、ボカーンッとかやったに違いない。
そして、後始末はこの私が…。
あの日、帰ってくれて正解だったんだ。


「…ん?」


私が自分に言い聞かせている間、アーデルハイドは室内をウロウロと歩き回っていた。
イナイイナイと呟きながら歩く姿は、玩具を無くした子供のようだ。
そんな調子で、私の所までやって来たアーデルハイドは身を屈める。


「ここかなっ?」


鋼のがデスクの下に居る訳がないだろう。
いくら小さいとはいえ…。


「ぬー。さてはロイ、小さいの隠したな?」
「誰が隠すか。」


つまらないと口先を尖らせ、戻っていくアーデルハイド。
そして、彼女はすっかり定位置になったソファーに、どかりと腰を下ろした。


「エドワード君達なら出掛けてますよ。」
「そーなの?」


そこにホークアイ中尉が茶を淹れ、アーデルハイドに差し出した。
彼女は礼を述べて、そのカップを受け取る。
次いで、私の所にもカップが置かれた。


「彼らはショウ・タッカーの所だ。」


私がそう告げれば、アーデルハイドは首を傾げた。


「ショウ・タッカー?誰それ。」
「…お前な、同じ専攻の国家錬金術師だぞ。綴命の錬金術師。」
「誰だっけ?んー…。」


ていめいテイメイテイメイテイ…。
彼女の口から呪文のように綴命という単語が、何度も漏れ聞こえる。


「綴命…ああっ、あの。東の人間だったのか。」

 
それは知らなんだと、アーデルハイドはカップに口をつける。
中身を口に含んだ辺りで、細い眉がひそめられた。
まだ、ここの味に馴染めないらしい。





 
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