□雨越しの邂逅
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冷たい雨の降る日。
俺達は罪人を連行する為に東に出向いたというのに、当の罪人は既に裁かれていた。

傷の男の手によって。






「悪い事は言わん。護衛を増やして、しばらく大人しくしててくれ。」


遺体の確認を終え、同じくやってきていた友に心の底から願う。


「ここらで有名どころといったら、タッカーとあとはお前さんだけだろ?」


渋い顔で考え込む、焔の錬金術師ロイ・マスタング。
その脇で、うなだれたように俯いている白い影があった。


「それとお前もだ。アーデルハイド。」


影は、アーデルハイドは俺の言葉にゆっくりと顔を上げた。
俺を認めて、困ったように微笑む。
良かった。
最後に会った時より、幾分か元気になったようだった。


「…うん、わかってます。」


彼女は俺の言葉に、神妙な顔で頷いてくれた。


「でもね。」


ん、でも?


「この扱いは不当じゃないかな!?」


途端、少女のような女がギャーギャーと体中で不平不満を表す。
彼女が、アーデルハイドが腕を振る度に、ジャラジャラと音が鳴る。
音の元は、彼女の両の手首に填められた手錠だ。

確か、現場に来た時はロイに手を掴まれていたのだが。
何時の間にかそれが手錠に変わっていた。
そして掛けたであろう張本人は、至って真面目に彼女の疑問に答える。


「お前はそうでもしてないと、傷の男を探しに行ってしまうだろう?」
「否定はしない。でもね、この場所で手錠かけられてるのってもの凄く誤解招くの!!」


本当だ。
通りかかる憲兵が皆、彼女に不審の眼差しを向けて過ぎていく。
でも、それはお前が暴れているせいもあると俺は思うぞ。


「だから、これ外してよ。っていうか安い金属は肌荒れる。」
「駄目だ。お前はそのまま待機。」
「ケチっ。」


むくれる彼女を放置して、ロイは顎に指をやりしばし何かを考え込む。


「いや、人をつける。アディは先に司令部に帰れ。」
「ヤダ。」
「命令だ。」
「ヤダッ。」
「ヒューズ、少しコレを見ててくれ。」
「ヤダァー!」


ロイはアーデルハイドを俺に押し付けて行ってしまう。
受け取ってみたものの、俺は今すぐ手放してしまいたい衝動に駆られた。
ああ、すっごく機嫌が悪い。
このギリギリ聞こえるのは歯ぎしりか?


「なぁアディ。そんなに探しに行きたいのか?」
「…当たり前でしょ。」


問えば、短く答えが返ってくる。
俺はほんの少しだけ、力み強ばっている細い肩を掴む手に力を込めた。


「お前が傷の男を探し出して、どうするか知らないけどな。俺は止めるぞ。」
「分かってる。」


今度の腕の内からの返事もやはり短い。
申し訳なさそうに呟かれたのとは対照的に、触れたままの体から力が抜けるはしなかった。




 
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