□友達以上
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鋼のが、壊れた腕を直す為に故郷に帰ると決めた直後、


「じゃあ、私も帰ろっかな。」


とアーデルハイドが言い出した。
思わず、私はデスクから身を乗り出しかけてしまった。


「アディ…。」


てっきり、まだ居続けるものだとばかり思っていた。


「平気なのか。」
「大丈夫。」


雨に濡れ、泥染みのついた白いコートを腕に引っ掛け佇む彼女は微笑んだ。
その目にはしっかりとした光が宿っている。
此処に来た日とは違う。
誰かに肩を叩かれた。
それは私の隣に立っていたヒューズだった。


「ロイ、心配し過ぎだ。何かあったらウチにくればいいさ。な?」
「うん!マース居ない間にグレイシアと…ネ?」


元気に頷いて、思わせぶりにイヒヒと悪童が笑った。


「ぬぉぉ!お前はやっぱり東部に居なさいっ。」
「けっ。やだね、帰るもんね!これからは毎日グレイシアのご飯食べるんだもんね!!」
「このっ、俺を差し置いてかっ!」


イイ歳の大人が、キィキィと小猿のようにじゃれあい始めた。
だが、その様に安堵している自分がいる。
あんな事件が起きて、また彼女の元気が無くなるのではと心配したのだが、割と平気らしい。
これなら帰宅させても問題ないだろう。


「落ち着けヒューズ。アディが女房と仲良くして何処が悪いんだ。」
「ひぎゃっ!」
「アディは何かにつけてグレイシアに色目を使う。油断できねぇ!」


ホールドされたアーデルハイドは、必死の形相で首に巻き付くヒューズの腕を幾度も叩く。
だが、技は解けない。
キレイにきまっているらしく、段々悪くなる顔色。


「色目って…。ともかく、放してやれよ。」
「おっと、いけねぇ。」
「ゲッホ、ゲッ…。タップしてるのにィ!」


咳き込むアーデルハイドの背を、悪かったとヒューズがさする。
すると、その隙をついて今度は彼女の腕がヒューズの首に絡みついた。


「うお!?」
「皆さん仲良しですね。」


崩れかけたアルフォンスに問われる。
その質問に対して出た私の答えは、溜め息混じりになっていた。


「長い付き合いだからな…。」
「ねぇ、なにその嫌そうな言い方。」


耳聡いアーデルハイドが、ねぇねぇねぇ!と噛みついてくる。
その彼女の腕の内で、もがくヒューズは顔色悪くニマニマと笑っていた。


「…。」
 
もうあの二人は無視だ。
構っていると先に進まん。
それなのに、わざわざ荷物を持って近寄って来る問題児。
彼女はフンッと胸を張って私を見下ろした。


「こんなに可愛い私と知り合えて光栄でしょ!」


自分で言ってしまうか、普通。
聞き慣れていても呆れてしまう台詞だ。
顔を上げれば、唇を尖らせて私を見下ろす彼女と目が合った。
色味が変わったとはいえ、確かに文句の付けようのない容姿なのは事実なのだ。
だが…。


「可愛いのは外見だけだ。」


中身は性悪。
従順なのは、飼い主に対してだけ。

私は彼女から目を逸らした。

―――そうだ。

奴がいつまでも彼女の手綱を握っている。



 
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