◇F/Alchemist

□教育的指導
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そういえば、いつぞやか彼女がこんな事を言っていた。

「しつけは、悪い事をしたその場で、素早く短く分かりやすくが理想です」

車で外出中、突然道路に飛び出してきた子供を叱った時に言っていたのだったか。
ならば、叱っても理解しない者に対してはどうしたらよいものだろうか。





―――ガシャンッ


私が掴んだハズのインクの入った小瓶は、手の内から呆気なくこぼれ落ちた。
何故だ。
確かに掴んだはずなのに。
いや、この手は今も何かを掴んでいた。
確かめれば、私の手には瓶の蓋だけが握られていた。
そして、床には今は砕けてしまった瓶本体があった。
しかも、どうしてくれたものか。
飛び散った瓶の中身が私の軍服を汚している。


「………アーデルハイド」


背後で気配を消し、部屋から逃げ出そうとしている者の名を呼んだ。


「最後にこの瓶に触れたのは貴女、ですよね?」


意識して笑顔で振り返れば、唯一部屋の外に通じる扉のノブに手をかけたアーデルハイドと目が合う。
しかし、視線はぶつかった瞬間に背けられた。
私に向けた横顔は遠目から分かるほどに青い。


「私が訊ねているのですよ?」
「は、はいィ!自分が犯人です!!今すぐ拭く物片付ける物持ってきまひゅっ!!!」


彼女は滝のような冷や汗を流し、敬礼をしたまま舌を噛んだ。




 
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