◇F/Alchemist

□低気圧発生のち晴れ
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もうすぐ私の勤務時間が終わる。
でも、まだ厄介な事に、天候が悪くなってきていた。
それは外の話ではなくて、この部屋の中心の話だ。
…遊びに行く約束があるっていうのに。




「……少佐」


私は、執務机の椅子に腰を据えたキンブリーに、机越しに問い掛けた。


「私、何か失敗しましたか?」


返事は言葉ではなかった。
茨のように刺々しくも、剃刀のように鋭い視線を向けてくる。
ああ、嫌だなぁ…。
いつまで経っても、この不機嫌低気圧には慣れない。
どうしても、尻尾巻いて逃げてしまいたい衝動に駆られてしまう。
でも、逃げる事もお布団を被ってやり過ごす事も出来ないのだ。


「ぇーとぉ…」
「自分の胸に手を当てて、よく考えてみなさい」


そう言われて、一応胸に手を当てた。
経験上、こうしていて答えに行き当たった試しなんてないのだけど。
今それを口にしたら、確実に私の命は散る。
もう、この維持に苦労している体がバランバランに砕けちゃう。
それは絶対に避けなければならない。


「ぅー」


どうしてか、ずぅーっとキンブリーは無言でむくれていた。
私が出来る限り答えを探しても、何度理由を訊ねても、答えらしい返事は得られない。
別に仕事ではミスしてないし、その他無礼不躾みっともない事もしていない…筈だ。
だったら、このヒトの機嫌が悪くなったのは何が原因で、何時からだろうか?

今朝の機嫌は良かった。
午前中は書類仕事で、殆ど執務室に籠もりきり。
休憩の時も、合間の雑談の反応は普段通りだった。
コレと言って、雲行きの怪しくなる兆候はなかった。
勿論、お昼も大丈夫。
なら、天候不順になったのは午後からか。
………ん?
いや、違うな。
昼食から帰ってきた辺りから少々むっつりしていたような…。


「んー…」


私は、その辺りの時間の記憶が収められている頭の引き出しをあさる事にした。




 
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