◇F/Alchemist

□恋に狂い…
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夢をみた。
夢など睡眠時に脳内で、勝手に行われる記憶の整頓であり、過去の出来事の継ぎ接ぎだ。
これから起きる出来事を暗示している訳ではない。
そう分かっているのに、やけに現実味を帯びていたソレが頭から離れない。






「少佐、どうしたんですか?」


突然、視界に現れた私の副官。
椅子に腰掛けた私の顔を、アーデルハイドが身を屈めのぞき込んできたのだ。
どうしてか、彼女は心配そうに顔を歪めている。
私を気にかけてくれる。
その事自体は悪い気はしない。
しかし、今は彼女に構っていたくなかった。


「なんでもありませんよ」
「そうですか?」


手を振ってアーデルハイドに仕事へ戻るように促す。
それなのに、彼女は私の側から離れて行かない。


「本当に?」
「…しつこいですね」


思わず出した声は苛立ち、冷えていた。
言ってしまった言葉は取り消せない。
彼女はムッと唇を尖らせた。


「それは大変失礼致しました」


早口にそう言って、私に背を向け離れて行ってしまう。


「待ちなさい」
「何でしょうか?」


立ち止まりはしたが、振り向きはしなかった。
やはり、怒らせてしまったようだ。


「…心配してくれた事には感謝します」


彼女は勢い良く振り返った。
私が下手に出るとは予想していなかったようで、目を幾度も瞬かせてから苦笑する。


「ところで、そろそろお出掛けの時間になるんですけど。どうします?」


彼女は着けてもいない腕時計を指差してみせた。


「ああ、そんな時間でしたか」


私は随分と考え込んでいたようである。




 
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