◇F/Alchemist

□……の遠吠え
1ページ/5ページ





軍人には色々な義務がある。
守秘義務然り。
国民を守る然り。
その中でも私が一番こなしたくない義務は、とある技能の訓練義務だ。





「下手くそですね」


上官は、私の使っていた射撃用のターゲットを一瞥して簡潔に感想を述べた。
私が両手で広げたポスターサイズの紙の中央には、墨色の人型が描かれており、六ヶ所穴があいている。
けれど、人型にあいているのは二ヶ所だけ。
その内、生きている人間にあいたとして、致命傷になる穴は一ヶ所のみだ。

そんな軍人として落第点をつけられそうな射撃の成績を、事もあろうにキンブリーに見られてしまったのだった。


「……」


私は口の中で唸る。
使用済みターゲットを回収したところに、彼がやって来てしまったのだった。
自主訓練をしてくる、と言い残して出てきたのだが、まさか追って来るとは予想外。
だって、出掛ける時点でキンブリーの仕事はたくさんあった。
仕事好きは仕事を優先すると踏んだのだ。
否、そもそも射撃訓練場に行く、と伝えておいたのがマズかったか。


「少佐。胸に沁みる分かりやすい感想をありがとうございます」


私は淡々と礼を返した。

下手くそ。
そんなことを言われて怒らないのは、自分でもちゃんと己の射撃の腕前を知っているからだ。
だから、言われても仕方がないと思う。
通りすがりの軍人達も、私のターゲットを見て、オイオイ…と呆れて去っていく。
そのおかげで、赤点の答案を顔付きで晒されている気分だ。
赤点なんて取った事ないけど。

それにしても、訓練生の時分からこれだけはどうしても上手くならない。
卒業するまでの間、ずっと教官に心配されていたのは恥ずかしくも懐かしい思い出である。
そして、当時からつるんでいる友人には、

「俺が前に居る時は、絶対に引き金を引くな。まだ死にたくねぇ」

と、釘まで刺された。
ヒドイ事を言われたと、別の友人に慰めの言葉を求めれば、

「悔しければ、もっと訓練しろ」

と、突き放されてしまった。
挙句、弾薬の無駄使い。と管財部の知人に言われ頭にきたので、目の前で弾丸を大量に練成してやった事もあった。
…………思い出したら腹立ってきたや。



 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ