◇F/Alchemist

□イメージチェンジ
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私の目の前で、白い犬が尻尾を左右へ緩やかに振って、私に期待に満ち満ちた目を向けている。
どうやら、またしても妙な事を考えついたようだ。


「…一体、何の用ですか?」
「少佐、髪の毛切ってみませんか?」


何を言い出すのか。





只今、私は仕事が手空きになったので、お茶の支度をしていたのでした。
そして、少し前から暇つぶしにとある妄…想像で楽しんでいたら、想像に登場させていた人物から何を考えているのかと訊ねられた。
なので、私にしては珍しく素直に答えた。
そうしたら、

『また何を言い出すのか、コイツは…』

と、いう目でキンブリーが私を見たのである。
そして、うんと長い溜め息。
そんな反応が返ってくるのは分かってましたとも。
けれども、別の答えが欲しくてもう一度訊ねてみる事にした。


「少佐、髪の毛切ってみませんか?」
「切りません」


バッサリと切り捨てられてしまった。
でも、私諦めない。
午後のお茶セットを上官のデスクに並べて、残りのお盆などを自分のデスク上に片付けた。
後に、椅子に腰掛けるキンブリーの前でセールス開始。


「こう、この辺ツンツンとさせて」


自分の前髪の付け根から少し上を、両手で摘んで立ててみせた。


「今みたいにおでこは出しておいて。尻尾もサッパリさせて。きっと、チョイ悪みたいな雰囲気で格好いいと思うんですよねぇ〜」


私の吐き出した言葉に、お茶に満たされたカップに手を伸ばしたキンブリーの動きが止まる。


「…アーデルハイド。そう言えば、私が乗せられて髪を切りに行くと思っているのですか?」
「いいえ。私が床屋さんしてあげる予定です」


言いながら、指をハサミのように動かす。


「必要ありません」
「よし分かった。髪も洗ってあげますし、ひげ剃りにマッサージだってつけちゃう!」
「では、カット無しでお願いしましょうかね」
「残念でした。オオカミさんの床屋さんはカットがメインなんですゥ〜」


キンブリーは呆れ果てたオーラを醸し出しながら、紅茶に口をつける。
チラリと視線を投げかけてきた。
「一応、訊ねますが。無免許美容師さんは失敗したらどう責任を取ってくれるのですか?」


一ヶ月で髪の伸びる長さは平均して一センチ。
それが一年で十二センチだから…。


「そうですね、二年程我慢して頂ければいいかと思われます」
「つまり責任は取らない、と」


失敗したら、その間におかっぱなキンブリーとかが見れる。
なんて素敵な事でしょう。
でもきっと、その時には私の頭も酷い目に遭わされそう。
決行時には絶対失敗しないようにしなければなるまい。


「だってねぇ?少佐。それだけ長いと洗うのも大変でしょう?」
「何が、だってですか。私は、貴女程ズボラではありませんから問題ありません」
「ひどいや!!」
「それで、何故、唐突に私の髪型に文句をつけようと考えたのですか」


キンブリーは尻尾髪を摘んでみせた。
そうして見ると、どことなく高値の筆のようにも見えなくもない。
切り取って、筆にして、インクに浸してみたらきっと怒られるのだろうなぁ。


 
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