◇F/Alchemist
□なんとも日常
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昼の出勤。
この季節には暖かな陽気に誘われ、散歩がてらのんびり家を出たらば、なんとも稀な現場に出会してしまった。
「どろぼー!!」
ひったくり事件発生だ。
甲高い悲鳴が上がり、数十メートル程先でヒトが歩道に倒れ込んだ。
そして、加害者が脇に奪ったカバンを抱えて此方へ走ってくる。
だったら、私が成す事はひとつ。
嫌がらせ、否犯人確保の為、踵を鳴らして道の真ん中に立ちふさがってやる。
けれど、相手は止まる様子は無い。
全力疾走をキープのままだ。
そんな悪い奴に向かって、タイミングを見計らい拳を前方へ突き出す。
「どけ…ゲッ!?」
ナイスパンチ。
私の拳は加害者の中心を捉えた。
これも日頃の訓練の賜物だ。
だが、同時に指先に亀裂の入ったような鋭い痛みが走る。
「…〜ッ」
…手袋はめとけば良かった。