◇F/Alchemist

□春うらら
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その日、私達は食事も休憩も挟まず、忙しく仕事を片付けていた。
とても今日中には終わりそうもないも無い程の量だった。

しかし、それはさほど苦ではない。
仕事は好きであるし、この仕事さえ終わらせてしまえば後は定期的な楽なものしか残らない。
それに週明けには、珍しく二人とも揃って休暇が取れる。
せっかくの機会なのだから、二人で出掛けてみるのも、ゆっくりと過ごしてみるのも悪くない。


「アーデルハイド」
「はぁーい」


彼女は両手で抱えた荷物の影から顔を出す。


「次の休暇は暇ですか?」
「あ、ごめんなさい。先約がありますー」


彼女は、崩れそうな書類を運びながらあっさりと答えた。


「先約?」
「わ、我が家でワンワン達の相手です…ッ!」


そんな形相にならなくともいいじゃない!!
と、私の返しに肩を跳ね上げ、悲鳴のような声をあげる。
当然、書類が崩れ落ちた。
その状況にまた悲鳴があがる。
そして、誰もそんな顔は作っていない。


「あのですね、私は軍人だけど、やっぱり比重は錬金術寄りですからして、その上生物系の研究ですから研究体の面倒もたまには見なければいけない訳でして」


というか、そろそろアイツ等洗わないと獣臭いって怒られた…。
そう、すらすらと予定を告げる声はどんどん尻すぼみになっていく。


「しょ、少佐だって、たまには自分の為に時間使いたいでしょう?」


確かにそれは一理ある。






週明けの朝、私は自宅のベッドでひとり目覚めた。
取り敢えず身支度を整え、軽く食事を済ませる。

それから溜まっていた洗濯物を片付けた。
何分、最近の天候不順に合わせ、不定期な仕事に身を置いている故に、後に回せる作業はどんどん溜まっていく。
全てクリーニングで済ませられれば良いのだが。


「まぁ、そうも言ってはいられませんしね」


独り言をこぼし、私は洗濯籠を抱えた。
今日は主婦ならば大歓迎な快晴なのである。


洗濯も掃除も一段落し、昼近くなった頃ソファーに腰を据え読みかけだった本を開いた。
ページを一枚、二枚とめくっていく。


読み終わる頃には喉に渇きを覚え、自然とテーブルへ視線を向けていた。
だが、其処に飲み物は無い。
誰も用意していないのだから。

仕方なく腰を上げ、自らキッチンへ向かう。
確か、以前に持ち込まれた茶葉が残っていた筈である。
そう思い返しながら戸棚を開けた。
其処にはしっかりと茶器と茶葉が揃えて置かれていた。
だがしかし、


「…コレは…」


茶葉の缶の後ろには、ソレよりも大きな缶が隠されてあった。
不審に思い開けてみれば、中身はブランデーケーキだった。
香りなどからして、食べるには少し早い熟成具合だと思われる。
しかし、こんな物を購入した覚えは私には無い。


「いつの間に…」


このケーキの缶を置いた人物の考えを推測し、苦笑が浮かぶ。
ホコリが入らぬように蓋をキチンとしめ、ケーキの入った缶を棚に戻した。
けれど、場には芳醇な香りが残る。


「……」


そういえば、食料の備蓄が少なくなってきていた。
夜は外食で済ませるにしても、明日明後日の分は買ってきておいた方がよさそうだ。


「……ふむ」


私はスプリングコートを羽織った。





 
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