◇F/Alchemist

□HappyBridal?
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夜勤明けで非常に眠い。
だから、つい一瞬これはもう夢なのかと思ってしまった。


「……何事?」


普段、帰宅に使う街の大通りには人だかりが出来ていた。
道に沿って長く長く、かなり遠くまで人が立っている。
かなり奇妙な光景だった。
傍にいた見知らぬ一般人の男性も私と同様、この状況が理解できないようで不思議そうに声を掛けてくる。


「どなたか、国賓でもいらっしゃる予定でしたかね」
「なかったハズですよ。だとすると、有名人でも来るのかな」


ね?と私も相槌を打った。
これだけ大規模なイベントなら軍の中で噂にならない筈ない。
警備予定の話など聞いていないのだから、軍関係のイベントではないのだ。

視界上方に異物が入る。
ソレは私の鼻先へ、ひらひらと舞い落ちてきた。


「バラの花びら…」


一枚だけではない。
数え切れないくらい無数に降ってくる様子は、まさに花の吹雪。

そこかしこから歓声があがる。
ただ、花に対してだけじゃない。

降り注ぐ花の中、四頭の騎馬が二列縦隊で歩いてきたのだ。
その騎手と騎馬の衣装の豪華なこと。
軍の礼装なんて目じゃない。


「きれい、目ェ覚めた…」


そして、列はまだ続く。
騎馬の後ろ、列の中央には六頭立てのこれまた豪奢な馬車。
屋根のない車の座席には、白い衣装を纏った男女が幸せそうな笑顔を浮かべ座っていた。


「うわぁ、派手婚だぁ!」


私の感嘆の声よりも早く、周りから祝福の声があがる。
声に応え、二人は往来へ手を振る。
まるで、幸せを分け与えるかのように。

馬車は色とりどりの花びらの降る中、ゆっくりと通り去っていった。
街中を馬車でパレードだなんて、一体どこの資産家の結婚式なのだろうか。





 
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