◇F/Alchemist

□嫌煙の仲
1ページ/3ページ





飼い主の居ぬ間に散歩。

ではないけど、いつものように一人出掛けていったキンブリーの居ない間に、私も一人であちこちに出掛けていた。
勿論、お仕事ですよ。

通いなれた司令部の中をてこてこ歩いていたら、しばらく見ていなかった男の姿が目に留まった。


「あ、ロイだ!」


私の声で旧友のロイ・マスタングは此方を認識した。
すると、澄ましていた男の顔が一変した。


「げっ、アーデルハイド!?」
「げっ、とはなんだ!げって!!逢えて嬉しいと泣いて喜ぶくらいしたまえ!!」
「断る!」


つれない態度にムカついたので、私は久し振りに出会った友人にタックルをかました。
相手は潰されたカエルのような呻き声をあげたが気にしない。


「で、私の縄張りで何してんのさ?出張?移動?栄転おめでとう?お祝い?ヒューズに連絡して、お店でお祭り騒ぐ?」


久々に会った反動からか、頭の中引き出しからは沢山の遊びが引っ張り出された。
けれど、当の遊び相手のテンションは低い。


「騒がん騒がん」
「なーんでぇー?」
「出張だからだ。ただ用事があっただけだ。今日中に東にとんぼ返りだからだ」
「なんだ。帰っちゃうんだ。残念だ」


尻尾が垂れたぞ、なんてマスタングが言う。
つまらないのだからテンションも下がるというものだ。
ってか、そもそも尻尾なんて生えてません。


「むぅ。ホントに?私を避けてるのではなく?」
「本当だ」
「ちぇ。最近見つけた、お値段のお高いお店で腹一杯奢って貰おうと思ったのになー」
「たかるな!」


そう言いながら、大抵は出してくれるのがこの男。


「あーあ。せっかく、会えたのに。マスタング君の国家資格合格のお祝いしてないじゃない?」
「お前の分もだろう。それにしても、かなり古い話題を持ち出してきたな」
「だって、ロイは東で私は中央」


遊びに行くには丸一日の休日は欲しい。
しかし、不定期勤務不定休なこのお仕事ではなかなかそうもいかない。


「遠いからなかなか顔見に行けないんだもん。だからさ、会えて嬉しいでしょ?」


ほらほら〜と笑顔を振り撒けば、マスタングは苦笑する。
その表情のまま、無言で頭をテシテシ叩かれた。


「やーめーれー」


両手で頭を庇う。
攻撃の手が止まった。
マスタングの視線が一点に注がれている。
私の左手にだ。


「アディ、その指輪…」
「げっ、これは!」


とっさに左手をお尻の後ろに隠してしまった。
隠す必要などなかったのに。


「あ〜いや、そのぉ〜これはネ…」
「お前にも、ようやく男が出来たという事か。物好きが居たものだな。これは、お祝いに花でも贈るべきかな?」


なんて、鼻で笑う東部のモテ男の言葉にカチンときた。


「そーよ。そんな物好きも居るのよ」


私は、左手をぐわっと広げてマスタングの眼前に突きつけた。
ついでに、此処を良く見ろ!と薬指を強調してやる。


「だから、マスタング君からなんていらないもんねーだ。花なら彼から貰うから!」
「…そう、か」


おや?


「それもそうだな」


息を吐いたマスタングの声のトーンはわずかに落ちていた。
表情も曇ったように見える。
こういう調子の変化は…、と今度は経験の引き出しを漁る。
しっくりくる答えは一つで、他に見当たらないからそういう事なのだろうか。


「ロイ、もしかして寂しい?」
「なぜ、私が寂しがらねばならんのだ」
「じゃ、ヤキモチだ」
「誰が焼くか」


言う割には、今度こそむっつりと不機嫌丸出し。
経験測が大当たり。
これには、私の悪い癖が発動してしまう。


「マスタング君ってばふてくされちゃって。皆のアディさんが一人の物に?嫌だわぁ。私ったら罪作り〜」
「言ってろ」
「ンもぅ、マスタング君は私の事大好きなクセにィ〜」


唇をへの字に結ぶ男へにじり寄った途端、悪寒が背筋を駆け上がる。


「はっ、殺気!?」


どこからだと辺りを見渡すが姿は見えず、まさかと斜め上を振り仰ぐ。
そこに奴は居た。
というか、もうお帰りでしたか!




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ