◇F/Alchemist

□喪失
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「間違いない。アレは一番手を焼いていた頃のアーデルハイドだ」


娘の容態を確認した父親は、ようやく扱い易くなったのに…と大いに嘆いた。
実の親に嘆かれるなんて、過去の彼女はどんな人間だったのだろうか。


「泣くな、親父殿。どうにかナルナル〜」
「これが泣かずにいられるか!このアホ娘!!」
「怪我まみれな可哀想な娘に向かってアホとはなんじゃい!!」


父親は、入院手続きをしてくると言い残し出て行ってしまう。
病室には私とアーデルハイドの二人きりになった。
なんとなく気まずい空気が室内に流れる。
アーデルハイドもそう感じているのか、天井から吊された左足をぶらぶらと左右に振る。


「…包帯のヒト、痛くない?」


包帯の巻かれた指先で己の頭を指差すアーデルハイド。


「多少はね」
「包帯のヒト」
「その呼び方は止めてください」
「だって」
「ゾルフ」


名前だけを伝えれば、アーデルハイドは口をへの字に結んだ。


「…ファミリーネームは?」
「キンブリー。ゾルフ・J・キンブリー、これが私の名です」
「ンじゃあ、キンブリーさん」


実は記憶があるのではないか?


「ねぇ、キンブリーさんは私と一緒に事故にあったんでしょう。なんで私の側に居るの?どんな関係?」


教えて、と真っ直ぐに私の目を見て問うてくる。


「私と貴女は…」


上官と部下で、それ以上の関係だ。

たったそれだけの事が言えなかった。
代わりに、私はこうこぼしていた。


「…貴女が思い出せば良いだけの事だ」
「そんな無茶なァ。って、あれ?」
「帰ります」


背を向け、病室を後にした。
しかし、彼女からは別れの言葉も何も掛けられなかった。

病室を出てしばらく、いつの間にか湿気っていた目元を拭った。


「これは、堪える…」


私は彼女の記憶から抜け落ちてしまった。




私自身の休養で仕事を二日休んだ。
アーデルハイドは負傷した足の治療もあるので、もうしばらく休む手筈になっている。
しかし、歩けるようになったとしても、軍人としての記憶を無くしてしまった彼女に仕事はさせられない。
かといって、他の部下では役にたたないのは分かりきったことだ。
彼女の怪我が治るまでに手を打たねばなるまい。




 
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