◇F/Alchemist

□恋敵
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市街地で、二人で休暇を満喫していた時の出来事である。




「少佐、馬ですよ、馬!」


私の服を引っ張るアーデルハイドの指差す先、道路の向こう側に白馬が綱を牽かれて歩いていた。
飾り付けられた馬。
その側には一頭引きの馬車が停められている。
馬車も馬と同様リボンや、色とりどりの花で飾られていた。
これから何かイベントがあるのだろう。


「私、馬、好き!」


仕事柄、馬など見慣れてはいるだろうに。
それでも、隣に立つ女は赤い瞳をキラキラと輝かせている。
普段あまり見せない表情をしているものだから、意地悪をしてしまいたくなった。


「貴女、私に馬並に努力しろと?」
「そんな下品な言葉聞きたくない!!」
「何が下品なものですか。私が言ったのは、馬車馬並に仕事に努めるという意味ですよ」


隣で真っ赤なトマトになっている女を鼻で笑ってやる。


「私は、貴女の発言を私にそれぐらい仕事に励んで欲しいという意味だと取ったのですけど。貴女の思考の方が、随分と品性下劣なのではないですか?」
「ぬぅぅ〜!」
「まぁ、ご要望とあらば頑張りますが」
「いらない!!」


ぷいっと私から馬に視線を移して、一分二分。
彼女の視線が白馬から離れない。
ああ…白い尻尾が揺れている。
溜め息が出た。


「そんなに気になるなら、近くに寄って見せて貰ってきたらどうですか」


すぐさま駆けていくと思われたアーデルハイドは首を横に振った。


「やめときます。私、馬には特に嫌われるんで」
「何故?」


正直、彼女に苦手な動物はいないと思っている。
先日など軍部内にネズミが出たと騒ぐ女子職員の為に、彼女は先陣をきって罠を仕掛けに行っていた。
そして、獲物を生きたまま捕らえて悲鳴の嵐を呼んだくらいである。
天敵はあの八本脚くらいではないのか。

アーデルハイドは不本意な表情で袖を鼻に近づけ、ふんふんと匂いを嗅いでみせる。


「私、どうにもイヌ臭いみたいなんですよね。近づくのも嫌がられちゃう」
「なる程、野生の本能ですか」
「です。好きなんだけどなぁ」


いっそ飼おうかなぁ、なんて言い出す始末。
確かに、彼女の実家なら飼えなくはないだろう。
だが、これ以上動物に時間を奪われるのは面白くない。


「今よりペットを増やしてどうするんですか。さあ、行きますよ」
「はぁい」


返事をしながらも、その場に未練を残しているアーデルハイド。
仕方無く彼女の手を引き、立ち去ろうとした。
その時―――





 
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