◇F/Alchemist

□やらねばならぬ
1ページ/3ページ





広々とした練兵場。
訓練用に掘られた塹壕やら、木の板で作られた背の高い壁などがあちこちに設置されている。

そんな練兵場を鉄線で区切った柵の向こうには、二個中隊くらいの観客。
しかも、半分はお偉いさん。
テントの下には青い軍服以外も混ざっているから、ちゃんと国政側のお偉いさんも見に来ているのだろう。


「さて、弱りましたね」


私の数メートル向かいには皆と変わらぬ軍服姿ではあるのだが、普段通りの紳士然と佇むキンブリー。
弱ったとか言う割に、雰囲気はすでに臨戦態勢。


「…っ」


改めて思う。
なんでこんな事になってんだ?






「見せ物になれってか…」


先程、配達された書類の内容に腹が立ち、思わず口汚く口走ってしまった。
両手で持っていた薄い紙にシワが寄る。


「まぁ、その解釈は間違いではありませんよね」


自分の椅子にふんぞり返っていたキンブリーも言う。
彼の手にも私と同じ内容の書類が握られていた。

怒りの矛先は、私達国家錬金術師に通知された内容に対してだった。

我が国、アメストリスは軍の影響力が強い国だ。
だが、何から何までも軍人が決めて、仕切っている訳ではない。
少なからず、ペンと言論を武器にしているお役人様も存在している。
そんな役人の中には、私達国家錬金術師を『金食い虫』と評する人間も居るのが事実である。

お財布を管理する側の気持ちは分からなくない。
実際、国家資格を手に入れたとしても年に一回の査定を乗り切れず、資格証明の銀時計を返還する者は数多い。
つまり、失格者が出る度に莫大な研究費を無駄にしてしまうのだ。

だったら、国家資格者の数を減らして税金を節約しろ!
と、お役人様達は最近軍の上層部とやりあったらしい。
そしてその結果、軍人として勤めている国家錬金術師同士の模擬戦闘を行う事にしたらしい。


「なんでやねん!」


怒り心頭。
私は通知書を床に投げ捨ててしまった。
けれども気は収まらない。


「軍属の国家錬金術師?って事は工房に引きこもってる連中じゃなくて、強面武闘派じゃん。誰が居たっけ?えーとグラン大佐とか、アームストロング少佐とか…ま、マスタング君とか…」


今挙げた人間だけでも敵に回したら厄介な連中ばかり。
しかし、それ以上に厄介な相手がいる。
怒りを撒き散らしながら気が付いてしまった恐怖に耐えられず、視線が傍らの男に行ってしまう。
確認したくないのにどうして確認してしまうのだろうか。
視線を受け止めると、綻ぶキンブリー。


「私も、ですね」


ああ、ドカーンと一発あげたくてウズウズしてるっぽい。


「……私、当日はお腹が痛くてトイレとお友達になる予定なので休みマス」
「何を馬鹿な事を言っているのですか」
「だって!」


私は、合成獣の製作手腕を認められたから国家資格を手に入れられたのだ。
列挙した錬金術師達のように、私の錬金術は戦闘に特化している訳ではない。
友や爆弾魔のキンブリーのようには、だ。


「錬金術抜きならやるのに…ッ!」
「貴女、格闘術の成績は悪くなかったでしょうに」
「だからこそ、錬金術抜きだったらやるんですよォォ〜」


出なけりゃ、ウチのイヌ達をけしかけるのを許して貰わないと割に合わない。


「アーデルハイド」


暴れたい気持ち一杯の私を呼ぶと、キンブリーは通知書を綺麗に折りたたみ始めた。


「どうせ、彼等には私達の研究の中身など出来ないから、単純な方法にしたのでしょう。諦めなさい」
「はい…」


期待を隠しきれない声で諭されてしまう。
拾い上げた紙を八つ裂きにしたい気持ちに駆られたが、上官を見習って綺麗に畳んで模擬戦開催日を楽しみにしてみよう。




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ