◇F/Alchemist

□雨宿り
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「すみませんっ!本当にごめんなさい!!」


只今私は、とあるお宅の玄関先で平謝りの最中です。
何故なら仕事中徒歩で外に出ていたのだが、突然の夕立に遭い、このお宅に飛び込んだのだった。

しかし、幾ら謝ってみても家主のご機嫌は悪いまま。
それも仕方がないと思う。
玄関を開けたら、そこにはびしょびしょの濡れネズミが立っていて、雨宿りをさせてくれと懇願。
最悪、傘も貸して貰えずに帰されても文句は言えない。


「少佐、許してください。他に頼れるヒトが無かったんです〜」


顔の前で手を合わせ、精一杯の言い訳。
そんなずぶ濡れな私を見て、家主のキンブリーは目を眇めたのだった。
そして、冷たく一言。


「そこで全て脱いでしまいなさい」
「ええぇー!?」
「アーデルハイド、貴女は私の部屋を水浸しにするつもりですか?」
「うう…」


今、タオルと着替えを用意しますよと、キンブリーは部屋の奥に行ってしまう。
一方、私はキンブリーに言われた通り濡れて重くなった上着を脱ぐ。

私が緊急避難先に選んだのは、非番のキンブリーの自宅。
…だって、この辺りには他に知り合いが居ないんだもの。
色々と危険だと分かってはいても、ずぶ濡れで軍部まで帰るのは嫌だったんだもの。
特に、大事な書類が雨に濡れてしまうのが非常に困るんだもの。


「…あの…見てないでクダサイ」


胸の中で言い訳を並べ立てていると視線を感じ、私は肌に張り付く服を脱ぐのを止めた。
キチンと畳まれたタオル片手に戻ってきたキンブリーが、上着を脱ぐ私から目を離さないのだ。
今日の上着の下は、黒のタートルネックだったから良かったものの、白のワイシャツだったら大惨事である。


「別に、今更でしょう?」
「い、今更とか!紳士だったら、レディの着替え時にはさり気なく視線を逸らすものです!」
「私、実は紳士ではないのですよ」
「開き直った!?」


キンブリーは溜め息を吐く。


「いいから、さっさと脱いでしまいなさい。そして、風呂に浸かりなさい」
「だったら脱衣場で着替える!」
「廊下が濡れる」
「ぅー…」


ピシャリと家主に言われてしまっては仕方がない。
ええ、脱ぎますとも。





 
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