コルダ

□きらりひかる
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星奏学院高等部の校舎の屋上。
二階建ての音楽科棟からのみ出られるその場所は、様々な用途で使われる。
普通科の生徒には、授業の後の憩いの場。
音楽科の生徒には、技術向上の為の練習の場。
そして、時折、教職員の息抜きの場。
 
そんな多様性の高い屋上から、ヴァイオリンの音色が聞こえてくる。
四分の三拍子の舞曲。
ワルツだ。



星奏学院の若き理事長、吉羅暁彦は階段を上る。
経済的に傾いた学院を立て直す為、そして一族の一員としての役目を果たす為、彼は度々学院を訪れていた。
けれど、正直言って、教育には興味がなかった。
学院の理事長に就任したのは、経営に詳しい人材が必要だと、親戚に頼み込まれたから仕方がなく、だ。
しかし、今現在は少しばかり心境が違う。
季節が冬に差し掛かる頃、とある生徒達と知り合った事きっかけで考えが変わり、そのおかげで彼は苦労をする羽目になっていた。
今も、溜まりに溜まった仕事を一段落させて、息抜きをしようと屋上を目指していた。
だが、階段の上の方からヴァイオリンの音色が聞こえてくる。

「………先客、か」

時間は放課後になったばかり。
練習室の予約が取れなかった生徒の誰かが、練習に来ているのだろうか。
ならば、邪魔をするのも悪いだろう。
吉羅は引き返そうとして、足を止めた。

「これは、彼女か」

聞こえてくる音色には聞き覚えがあった。




 
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