F/Alchemist

□過去を写した小さな紙きれ
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珍しく我が家にやって来たキンブリー。
招き入れ、客間に通そうとすれば、お客様は客間は嫌だと仰った。
ワガママですね。


私はお茶にお茶請け、他にちょっとした物を盆に乗せて廊下を歩く。
歩みに合わせて、香ばしい香りが抱えた盆から漂ってくる。
今日はせっかくだから、コーヒーミルで豆から挽いてみました。
だから支度に時間が掛かってしまったけど、美味しいものの為だから仕方がない。
毎日不味い茶ばっかりなんだし、たまには良い物が食べたいのだ。


「お待たせしました。」


お客様は私の部屋の中でくつろいでいた。
部屋の中っていうか、ベッドの上。
縁から中央にかけて深々腰掛け、伸ばしていた長いお御足をさり気なく組んだ。
随分とリラックスしてマスネ…。


「何を読んでるんです?少佐。」


キンブリーは声をかけられたのに、私には目もくれない。
何か本を開いて興味深げに読んでいるのだ。
いや、読むという感じではない。
見ている、眺めている。
その辺りの言葉がぴったりだろうか。

この部屋は壁一面が本棚になっているので、本は幾らでもあるのだけど。
彼は一体どの書物に興味を惹かれたのか。
気になって私は目を凝らしてみた。
キンブリーの膝の上、広げられた厚みのある本。
ページ一枚一枚も厚紙のようで…


「…あ。」


あれ…私のアルバム…か?


「何を勝手に…ッ!」
「暇だったので。貴女、昔は髪が長かったんですね。」
「そうなんですよ。って違ぁーうっ!大人しく待っててって言ったのに!」
「大人しかったでしょうに。」


褒めて欲しいくらいですよ、なんて悪びれずに言うキンブリー。

こんな悪い子誰が褒めるか!

私は机の上に盆を置いて、次のページを捲る人物に詰め寄った。
本棚の隅っこの更に奥に差し込んであったのに、どうやって見つけたんだか。


「とにかく返して下さい。」
「アーデルハイド。今も可愛いが、幼少の貴女も可愛らしい。」
「なッ、に言ってるんですか!?」


本当、何サラッと言うのやらこのヒトは。
心臓に悪い…ッ!


「事実を述べたまでです。という訳で、私は貴女の軌跡に興味があるんですよ。」


キンブリーは膝の上に目を向けたまま、私の催促の手を脇へとよけた。


「もぅ、返せ!」


こうなりゃ実力行使だ。
私はアルバムを奪い返そうと、キンブリーに襲い掛かった。
今、敵は腰を下ろしている。
すなわち、今回は身長差によるハンデは無い!


「な…ッ!?」


だがしかし、私の手は目標物には触れられなかった。
アルバムはキンブリーによって素早く閉じられ、掲げられたのだ。
もう一度攻めてみるも、またかわされてしまった。


「ほらほら、どうしました?アーデルハイド。」
「〜ッ!!」


からかう口調でそう言うキンブリー。
その上、もう余裕しゃくしゃくって表情が更にムカつく!


「返して欲しいのでしょう?」
「負けるか!」


返せ返せと揉み合っていたら、私の手が厚い表紙を弾いてしまった。


「む。」


そのまま、アルバムは音を立てて床に落ち、弾みで中身がバラけて散った。


「あぁーッ!」
「おやおや。」


何十枚もの写真が床を埋め尽くす。

色褪せた狭い紙の中の世界。
そこには、歩くことも出来ないくらい小さい私。
家族と一緒に笑う私。
そんな昔の私が沢山居た。


「あーあーもぉー。」


私は慌てて床に座り込み、それらを拾い集めた。
そして、広げたアルバムに一枚一枚元通りに戻していく。
しかし、拾い集めたモノを年代順に当てはめ、並べていくのはかなり面倒な作業である。


「ぅー。」
「手伝いますよ。」
「結構ですから触らないで下さい。頼みますから、今度こそソコで大人しく座ってて下さい。そしたら褒めてあげますから。」


一息に制すれば、上げかけた腰をベッドに戻すキンブリー。
その後は本当に大人しく、膝に頬杖をついて私の行動を目で追ってくるだけだった。




 
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