F/Alchemist

□三つの欲求+愛情=?
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昼食中。


「…なんですか?」
「いえ。」


向かいの席の彼女は不可思議そうに訊ねてきた。
それは私が頬杖をついて、ずっと彼女を眺めていたからだろう。


「少佐、食べないんですか?」
「食べていますよ。」


食べているアピールにフォークで野菜をつつく。


「うそつき。さっきから減ってないですよ。」
「だったら、私の分も食べますか?」
「え。」


彼女は私の言葉に嬉しそうになるが、すぐさま表情を引き締めた。


「軍人は食べるのも仕事です。」


…叱られてしまった。





私は一人呼び出され、日も暮れた頃ようやく戻ってみれば、私の副官は休憩を取っているところだった。
机上にはマグカップと、小さな皿の上に食べかけのケーキが乗っている。


「おかえりなさい。」


また食べている。
だが、あのケーキは何時購入したのだろうか。


「…。」


行儀悪くフォークをくわえたまま、アーデルハイドは私の無言の問い掛けに答えた。


「…さっき外出た時貰ったです。」
「誰に?」
「可愛いケーキ屋の女の子に。新作作ったからあげると言われて。少佐の分もありますよ。」
「いえ、結構。」


私は自分の席に着いた。
替わりに彼女は席を立ち、空になっていたらしいティーポットに茶葉を放り込んで湯を注いだ。
空いた手で、傍の砂時計を返す。


「しかし、本当によく食べますね。」
「いーじゃないですか。私、食べるの好きなんです。」


砂の落ちるのを眺めながら、彼女は拗ねたように口を尖らせた。


「そうして、次第に肥えていくんですね。」
「こ、肥えてないもん!」


と言いながら、アーデルハイドは不安げに己の腹部に触れた。
ベルトの辺りをさすって肉付き具合を確認している。
そして、大丈夫と音無く呟き、何度も頷く。
どうやらまだ許容内のようだ。


「食べるのは人間の欲求の一つじゃないですか。無くなったら死んじゃうっていう重要な欲求です。」


だから私は食べると、アーデルハイドは続けた。
確かに、彼女の言う事は間違っていない。


「ですが、食べ過ぎも死に繋がりますよ。」
「注意はしてますから。」


そうこうしている間に砂時計の砂が落ちきる。
彼女はポットから湯気の立つ紅茶をカップに注ぎ、それを私の机に置いた。




 
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