F/Alchemist

□三つの欲求+愛情=?
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「ありがとう。では、睡眠欲はどうなのですか?寝汚いアーデルハイドさん。」
「……どーせダメ人間ですよぉ。」


問えば、途端にむくれるアーデルハイド。

彼女と幾度か一緒に朝を迎えた事はあるが、その都度苦労させられるのだ。
呼んでも起きない。
触れても起きない。
これで良く軍人をしていられるものだと思ったものだが、仕事だ遅刻だと聞かせると飛び起きる。
今までで一番反応が良かったのは、『朝食の時間』だ。
どこまでも食い意地が張っている。


「眠いとイライラするんです。誰彼構わず八つ当たりしてしまう程に。少佐、当たられたいですか?」
「それは遠慮しましょう。」


彼女も自分の席に戻って、食べ残しを平らげ始めた。
半分程残っていたケーキをひと口ふた口と口に運ぶ。
本当に幸せそうに食べるものだ。
その様子を伺いながら、私は紅茶を含んだ。
どうやらまた茶葉を変えたらしい。


「つまり、私から食欲と睡眠欲を取り上げたら大変なんです。」


アーデルハイドはさっさと食べ終えると、腰を上げた。
食器を片付けようとし始めたので、私も座ったばかりの腰を上げ、口を開いた。


「それでは性欲は?」


―――カチャン

問うた途端、アーデルハイドは皿を手から机上へと滑らした。
瞬く間に彼女の頬が朱色に染まる。


「あ、あれは一番無くても困りませんっ。」


私はゆっくりと彼女の元に歩み寄った。
しかしアーデルハイドは、慌てて自分の椅子の後ろに回り込んでしまう。
そして、その椅子を前方、私に向かって突き出したのだった。


「何故逃げるのですか?」
「本能が逃げろと告げるからです!」


彼女まであと数歩とまで近付いて立ち止まり、私は副官のデスクに手を着いた。
指で机をコンコンと叩く。
その音に合わせるように、アーデルハイドはジリジリと後ろに下がっていく。
下がった先には壁があるというのに。


「少佐、席に戻りましょうっ?ね!いえ、私が退室するまで其処に居てくれませんか!?」
「アーデルハイド。」


彼女は背もたれを掴んだ腕を必死に張って、出来るだけ距離を取ろうとしている。
その様につい口元が緩む。
幼稚な抵抗がどうにも憎めない。


「こんな物…。私には障害にもなりませんよ。」
「あ、土足厳禁っ。」


盾にされた椅子を踏みつけ、上半身を伸ばして彼女に迫る。
やはりそれでも邪魔には違いなかった。
なので、その足で椅子を脇に蹴り出した。




 
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