F/Alchemist

□当たるも当たらぬも
1ページ/3ページ





「私って男運悪いらしいです。」



休憩にしようと言い出した副官はぼそりとそんな台詞を口にした。
突然そんな事を言われた私は、頭上にクエスチョンマークを浮かべるしかなかった。

何があったのかと訊ねると、先の休日に起きた出来事をぽつりぽつりと説明しだす彼女。

最近、女性の間でウワサの占いの館があるそうだ。
そこへ女性の友人と共に訪れ、戯れに占ってみたのは恋愛運。
そして出た結果は、覆し難い程の最悪の運勢。
挙げ句、こんな運勢占い始めてから今日まで視たことないと彼の占い師を驚かせたとか。


今朝、登庁した時から何故か落胆し、恨めしい視線を私に向けていたのはその為のようだ。
今もむっつりしながら、

「花盛りな乙女になんてことを…。」

と呟きティーセットをテーブルに用意している。
私は息をついて呆れ気味、いや呆れて言った。


「安心なさい。その占いはハズレです。」
「なんで?」


首を傾げながらアーデルハイドは二つの紅茶缶を差し出して訊ねてくる。
右手にダージリン、左手にアールグレイ。
私が左手のアールグレイを指差すと、彼女は迷わず右手に握った缶を開けた。


「待ちなさい。」


私の呼び声に耳を傾けずに背を向けるアーデルハイド。
だったら、初めから訊くんじゃない。

私は自分の椅子に腰掛けたまま彼女を眺めていた。
どうにもお姫様は心底ご機嫌斜めらしい。
それはあの雑な茶の支度の仕方から嫌でも見て取れた。
まず、茶葉をポットに放り込んでいく。
分量なんてお構いなしだ。
注ぐ湯の量も同様だ。
とてもではないが今日の茶の味は期待しない方がいいだろう。


「まったく…。」


私がそう諦めていると、彼女はこちらをチラリと振り返り訊ねてきた。


「で、少佐。なんで占いがハズレだって分かるんです?」
「貴女はもう既にこんな良い男を捕まえているではないですか。」


この私が相手で最悪な訳が無い。
そして、これで彼女の悩みは払拭され、機嫌は良くなる筈。
そう思っての発言だった。
それなのに向けられるのは生温い白い視線。
その手元で砂時計が音を立て机上に置かれた。


「…その目はなんですか?」
「良い男とかフツー自分で言っちゃう?っていう目。」


何が悪い。


「貴女こそ良く言っているではないですか。自分は可愛い、愛くるしいと。」
「私はいーんですもーん。」

 
頬を膨らませてそっぽを向くと、白い髪が半歩遅れてなびいた。
ふわりと香水らしき香りが私の元へ届く。
彼女が漂わせるのは女の匂いなのに、態度は相変わらず子供のよう。
そして、それにつられて返す私もかなり幼稚である。


「はっ。そんな事だからいまだに門兵に止められるのですよ。」
「なんで知ってるの!?」


あの日は休みだったでしょ!?とアーデルハイドは血相を変えた。

新米の門兵は、必ず一度は私服の彼女を門で止めるのが通過儀礼だ。
先日もその儀式が行われた。
その際、余程腹に据えかねる仕打ちにでもあったのか、彼女は新人兵士に土下座をさせていたらしい。
しかも、笑いながらだ。
どうにも軍人らしからぬ容姿にプラスして、彼女の言動の幼さが門兵の目につくようだ。


「貴女が騒ぎを起こせば私の耳に届く。当たり前の事でしょう。」
「誰だぁ〜チクったの〜。」
「風の噂ですよ。悔しければもう少し大人らしくなってみなさい。」
「くっそー。」


スパイがいるんじゃ悪さが出来ないじゃない。
私の指摘した部分とはまるで違うところで悔しがっている。
彼女の行動が落ち着くのは当分無理なようである。




程なくして落ちきった砂時計の砂。
アーデルハイドは慣れた手つきで茶を注いだカップをどうぞと私のデスクに置いた。
それを受け取り、口をつける。


「…淹れ直して下さい。」


如何せん口の中がアールグレイになっていたものだから、含んだ液体に違和感を感じてしまう。
その上、普段よりも各段に渋い。
飲めたものではない。
よって、カップを突き返し淹れ直しを彼女に命じたのだった。


「なんでですか。」


不満げにアーデルハイドは返品された紅茶を含み、柳眉をひそめた。
そして、すぐさま素直に頭を下げ、部屋の外へポットの中身を捨てに行く。


次こそは、私の希望通りの茶を淹れてくれることを望む。




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ