F/Alchemist
□街角で
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ある非番の昼下がり。
買い物に出てみると街の中に妙な光景を見た。
少女が、黒い大型犬を連れている。
そこまではいい。
大型犬が妙なのだ。
「んーキンブリー少佐かな?あ、やっぱりそうだ。こんにちは〜。」
少女がこちらに気が付き、手を振り近付いて来る。
犬もそれに合わせて尻尾を振る。
「こんにちは。散歩ですか?」
「散歩です。」
少女、いや少女に見える女性はニッコリ笑って頭を下げた。
石灰色の髪が揺れ、その隙間から赤褐色の瞳が覗いた。
アーデルハイド・ヤード。
一見幼く見えるが歴とした軍人で、私の副官だ。
前回の国家試験で銀時計を頂いてもいる錬金術師だ。
互いに非番が重なるのは珍しい。
そして、非番の日にこうして出会うのは更に珍しいことだ。
「やー今朝からエマが甘えた全開でして。起きた所にタックルかまされ、私負傷、家具破壊。親父と喧嘩で散歩中という訳です。」
彼女は己の隣に座る大型犬の頭を撫でる。
妙な大型犬。
名前をエマというらしい。
黒い毛並み、鋭い鍵爪、背中に生えた黒い翼。
合成獣だ。
「それは随分と元気がありますね。」
私が手を伸ばすと合成獣は鼻を寄せてくる。
こうしてみると普通の犬と何ら変わらない。
「でもいいんですか。合成獣を連れ回して。」
幾ら気性が穏やかとはいえ、異形の犬だ。
「この辺りじゃもう何も言われませんよ。なんたってウチの近所です。」
私の家は怪物屋敷で通ってますから――
アーデルハイドは笑って言う。
笑って言う事でもないだろうに。
「…まぁ、貴女らしいですね。」
私は腕を上げ、彼女の頭を撫でる。
すると彼女は目を丸くして、俯いた。
「それでは、また明日。」
髪を指で梳きながら手を離す。
アーデルハイドも顔上げ、もう一度頭を下げた。
「はい。また明日。」
その顔は少し赤い。
合成獣が鼻を鳴らして彼女を見上げた。
私は一人と一匹をその場に残して歩み始める。
つい緩んだ口元を抑え、
「また明日、か。」
と口の中で呟いた。
こんな事で浮かれるなんて私らしくもない。
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