F/Alchemist

□戯れに隠して
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―――愛などくだらない錯覚にしか過ぎない。




キンブリーは己のデスクに肘を付ながら、前方でペンを動かしている士官を眺めた。

最近別の部署から引き抜いた中尉でアーデルハイドという女性士官だ。
彼女はまだ若いが国家錬金術師としての資格も持っている。
小柄で、普段は感情も表情も豊かな彼女は今は静かに書類に向かっていた。

そんなアーデルハイドも己に刺さる視線に気がついたのか、眉間に眉を寄せて顔を上げた。


「……少佐、サボらないでください。」
「はいはい。」


キンブリーは頬を緩めて応えるも手を動かしはしなかった。
頬杖をついてアーデルハイドを眺めている。

実はこのやり取りは今日だけで片手の指の数を超える。
流石に耐えかねたのか、アーデルハイドは椅子ごとキンブリーに体を向けた。


「少佐。お話があります。」
「なんですか。」
「どーして真面目にお仕事してくれないんデスカ。」


まるで面接官のように姿勢を正して、じっと自分の上官を睨み付けるアーデルハイド。


「少佐は几帳面な方ですし、お仕事溜めるなんてお嫌いなタイプだと思うんですが。」
「よくご存知で。私の事をよくみているんですね。」


キンブリーは気分良さげに口の端を釣り上げる。
対してアーデルハイドは喉に何か詰まったように唇を引き締めた。

「今はそう言う話じゃありません。」
「そうですかね。」
「そうです!ですから、はいっ!手ぇ動かして下さい。」


ホラホラと言いながら立ち上がったアーデルハイドは、キンブリーの手を掴み手近にあったペンを握らせた。

彼女の手は男の手に比べれば小さな、しかししっかりとした軍人の手だった。
キンブリーはその手をやんわりと掴む。
そしてそのまま己の口元に運び、高貴な令嬢にするように手の甲に恭しく口付けた。


「ッ!?」


それに驚いたアーデルハイドは素早く手を引っ込めた。
キンブリーと言えば悪戯が成功したとばかりに良い笑顔を浮かべている。





 
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