F/Alchemist
□一分一秒、一瞬刹那
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ゾルフ・Ｊ・キンブリー
新しく私の上官になった男。
彼の副官として配属されて早数ヶ月。
初対面での印象は胡散臭い紳士。
…これは絶対内緒だ、誰にも言わず墓場まで持っていくぞ。
だって冗談抜きで命に関わるから！
キンブリーはいつでも誰にでも敬語。
多少潔癖なところがある。
どんな時も自己の美学にでも則っているのだろう。
基本的に何事もキッチリしている人だ。
そして、少し怖い人。
あ、あと爆弾。
爆弾狂じゃなくてあのヒトが爆弾。
最近の印象をはこんな感じかしら。
まぁ、悪く言えば―――
「……自己チュー。」
「なんです？」
ついでに地獄耳。
私が漏らした呟きはかなり小声だった筈のに。
「何でもありません。」
私は書類に目を通しながら答える。
現に今だってそうなのだ。
執務室に爆弾と二人きり。
時刻は定時をとっくに過ぎていて、窓の外は真っ暗だ。
なのに何で私は今だに仕事をしているのでしょうか。
「アーデルハイド、貴女は私の副官でしょう。」
その一言のせいだ。
そうです。
私は貴方の副官です。
いやですがね、本日は少し予定があったのです。
まぁ立場上仕事している上官置いて帰っちゃ、マズいっちゃマズいんだけどね。
っていうか私の記憶の反芻じゃないぞ、今の声。
私は長時間作業の時だけ掛ける眼鏡を押さえて溜め息をついた。
情けない事にフレームを押さえる指が微かに震えている。
「……声に出てましたか？」
「声には出てませんよ。顔に、ですね。」
どうやら独り言を言っていたのではなかったらしい。
しかし、紙にペンを走らせたまま言うキンブリーの一声に軽く冷や汗をかいてしまった。
「それに時計を気にかけているようですし。」
「よく見ていらっしゃる…。」
「貴女の事ですからね。」
「何ですか、それは。」
彼はずっと机から顔を上げてなかった。
それなのにどうやって見ていたのだろうか。