F/Alchemist

□モノを介してなら呼べる
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「今更一匹増えたところで何て事無いのです。あ、歯が生えてる。こらぁ痛い痛い。」


口の中に入れた指をかじられアーデルハイドは指を引き抜く。
続いて耳を弄る。
嫌がる子犬は身を捻って抵抗する。


「それに私が面倒みなくても犬達が勝手に育ててくれますし。」
「ほぅ。」
「躾と訓練はしますけどね。お、いい根性だ。」

ファイルのページを捲りながら様子を伺うと、状況は子犬の身体検査からじゃれあいになっていた。
裏返された子犬が口を目一杯開け、体全てを使ってアーデルハイドの右手と格闘している。
彼女も楽しそうに子犬の相手をしていた。


「ははっ、そのおててはなんだ。止めてってか。」


子犬に向ける笑顔は普段私達に見せるもの以上に幼い。
これが彼女の自然な笑顔なのだろうか。


「昼休みにでも家に預けて来なさい。仕事にならないようですから。」
「そうします。それまでに名前考えなきゃ。」


はい、おしま〜い。とアーデルハイドは右手を退いた。

机の引き出しを開けると奥の方から紐、いや細いリボンを取り出した。


「お前はなんて名前がいい?」


そう子犬に訊ねながら首にリボンを巻く。
アレはこの間の菓子折り箱を飾っていた物だろう。
どうしてああいう物を溜め込むのかと思っていたが…。
役に立つものなのだな。

尚も手にじゃれつこうとする子犬を両手で持ち上げながら、アーデルハイドは私を見た。
それから視線を子犬に戻す。


「ん〜ゾルフとか?」


バサッ―――


「わぁ!?少佐落ちましたよ。」
「…あぁ。気にしないで下さい。」


不覚にも落としたファイルを拾い、口元を手を覆う。
不意打ちもいいところだ。


全く心臓に悪い…――


口の内で呟く。



 
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