F/Alchemist

□嫌いになれない笑顔
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「やぁ、マスタング君。」


彼女には笑顔がよく似合う。
朱色の瞳を柔らかく細めて、まるで華のようだ。
軍服の似合わない可憐な少女。

小さな体で必死に訓練に加わっている姿に目を惹かれた。





しかしどうだ。


「ローイ。」


話すようになってみてどうだ。
一緒に食事を取ってみたり、休日に遊びに出てみたりしてどうだ!
それなりに知り合ってみてどうだ!!

あんな出会った瞬間の淡い思いは一瞬で砕けてしまった。
寧ろ彼女自身に砕かれた。


「ロイってば。」
「げっ、アーデルハイドっ!?」
「げっとはなんだね。げっとは。ずっと呼んでるのにさ〜。」


詰まらない過去の回想から帰って来てみれば、椅子に座る私の顔を覗き込むようにしてアーデルハイドが立っていた。
片手には香ばしい香りを放つマグカップ。
それを机の上に置いて、彼女も椅子に座った。


「ボーっとしちゃってどうしたの?」
「いいや、そんなんじゃない。大丈夫だよ。」
「そ。なら良かった。」


アーデルハイドは一瞬残念そうな表情をした後、ニッコリと笑った。
一体何が残念だったのだろうか。
しかしコイツは…―――


「笑顔は天使なのにな。」


私の漏らした台詞にアーデルハイドは怪訝な表情で唸った。
そして、手を私の額に当てて首を捻る。


「…ロイってば何言ってんの。」
「いや、気にしないでくれ。」


彼女はその手を額から離すと、はいっと手にしていたマグカップを差し出す。
私は意味が分からずに、暫くの間そのカップを見つめていた。
するとアーデルハイドは改めてマグカップを前に出した。


「コーヒー飲んで目ェさませー。」


何がしたいのかは分かった、しかし!
……ソレは今の今までお前が口を付けていたものだろうに。
その証拠に縁には薄く赤い跡が残っている。


「遠慮しておく。」
「なんだよー。私のコーヒーが飲めないってのかぃ?」
「そういう訳じゃなくてだな。」
「じゃ、飲めるよね?よね?」
「うっ…。」
「飲め、ないんだ…。そーかいそーかい。」


いいんだいいんだ、と頬を膨らませるアーデルハイド。
ふいっと逸らした横顔の端には光るモノが見えた気がした。
演技だと分かっていても、フツフツと罪悪感が沸き上がってくる。


 
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