F/Alchemist

□誘惑一瞬、後悔一生!
1ページ/3ページ



世にも珍しいものを見た。


「……少佐が居眠りしとる。」


パンをくわえながらアーデルハイドは目を丸くした。







昼休み。
他の兵士たちが出払った後、私は持ち込んだパンを片手に本を読んでいた。

もうすぐ査定の時期なのだ。

国家錬金術師である為には絶対にクリアしなければならない。
しかし、昼は軍人稼業。
なかなか研究が捗らないので、こうした空き時間も活用しているのであった。

それは上官のキンブリーも同じ事。
彼も昼休みは外に行かず、何やらノートに書き込んでいたのだ。
だが、私が本から顔を上げた時には、腕を組んでうたた寝をしていた。


「珍しい、ってか貴重だなー。」


私は一人呟きながら席を静かに立つ。
足音を立てぬよう、部屋の隅に備え付けられた書棚に向かう。

棚は上半分は書棚、下半分は戸棚になっている。その一番下の引き戸を開けるとダンボールに入った毛布が現れた。
それは少し埃臭い。

…今度天気の良い日にでも干しておこう。
私は毛布を抱え、キンブリーの元に行く。


「お疲れ様です。」


注意を払いながらその膝から肩まで覆うように毛布を掛けてやる。

ゆっくりと上下する肩。
時折首が前方に揺れる。

やはり自分と同じで仕事を終えた後、深夜まで研究をしているのだろうか?

そんな事を考えながら眠る少佐の側を離れようとした。
しかし、普段見慣れぬ上官の顔に目がいってしまう。


「……色白いなー。髪の毛ツヤツヤだし。」


思わず己の髪の毛を弄る。
動きの制約を受けない為に短くした髪。
最近忙しくて切りにいけないソレは肩に着くまでに伸びていた。
……枝毛発見。


「そ、それにしても、こんな無防備な所が見れるなんてなー。」


いつもとかわらない姿勢だが、そこはかとなく彼の顔の筋肉が緩んでるように思える。
彼のようなタイプは人前などでは寝ないと思っていた。
それだけ私は気を許して貰えているのだろうか。


「……。」


ナイナイ。
きっと凄く疲れていらっしゃったに違いない。
そんな妙な自惚れはゴミ箱にポイッだ。
しかし、こうも隙だらけだと…―――





 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ