F/Alchemist
□看病フラグ
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子供の頃はすぐ誰かに頼れた。
しかし、大人になるにつれて誰かに頼る事は己の弱さを見せる事だと気づいた。
気づいたら最後―――
頼れなくなっていた。
頭が重い。
身体がだるい。
身体の芯があつい、発汗がある。
体温の異様な上昇。
「そういうのを世間じゃ何て言うかご存知ですか?」
私の目の前でどこから持って来たのか分からない救急箱と、先程いきなりくわえさせられた体温計を持ったアーデルハイドが仁王立ちで言い放った。
「風邪って言うんですよ!しかも三十九度?重症です。何考えてるんですか。」
よって強制早退!まったくもぅ――
早口にそう言い切った彼女はパタパタと動き始めた。
「着きましたよ。起きれます?」
正直此処までどうやって来たのかは覚えてはいない。
私も彼女も軍服のままだし、どうやらあのまま車に詰め込まれたらしい。
今いるのは車の後部座席で、私の家の前だ。
右前方の運転席からアーデルハイドが身を捻って此方を見ている。
「ぅ〜ぬ。駄目みたいですねぇ。」
運転席から出た彼女は後部の扉を開けて手を伸ばしてくる。
掴まれという事なのだろうか。
しかし、私を支えるには彼女は細すぎる。
「大丈夫ですよ…。」
強がって一人で車内から出たものの、ふらついた瞬間にアーデルハイドはすかさず脇に入って私を支えた。
「体調悪い時ぐらいは人に頼るべきです。」
私を見上げる彼女は普段の子供の笑顔とは別物の、母親のような笑顔で優しく笑っていた。
アーデルハイドは私を寝台に寝かしつけると、
「学者の家なのに薬が無いとはこれ如何に。」
と大きな独り言を呟いて出て行ってしまった。
学者の家だからといえど、必ず風邪薬があるとは思わないのだが。
ちなみに火薬や危険物なら棚にたっぷりとある。
どうやら少しの間眠っていたようだ。
時計を見やれば、彼女が出掛けてからすでに一時間が経とうとしていた。
薬を買いに行ったままなのだろうがと考え、ふと妙な不安が胸中を横切った。
「……くくっ。」
己の下らぬ考えに自嘲の笑いが浮かぶ。
「病の時は気が弱ると言うが。」
少し前のアーデルハイドの台詞が耳に反芻される。
これは確かに重症だ。
「ただいまこんにちはおじゃましまぁーす。」
「……。」
玄関の方から扉を開けた時に使われる言葉が一纏めになって聞こえた。
彼女だ。