F/Alchemist

□十二時の鐘は聞こえない
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今は何時だ?
仕事終わりの時間でしょう?
誰もが喜ぶ定時を過ぎた筈だ。
なのにどうだ。
なんだこの状況は!?







アーデルハイドはヒトに手を引かれ廊下を小走りに歩いていた。
彼女の手を引いているのは上官であるキンブリーである。

彼が普段はコンパスの違いを考えてくれているのが良くわかった。
今キンブリーは優雅に歩いているというのに、実際彼女は小走りを越して殆ど走っているからだ。


「少佐、何なんですか!?理由、説明を求めますーっ。」



定時の鐘が鳴り、胸の内で今日もご苦労さん。と自分を労った瞬間にキンブリーに肩を叩かれたのだ。

「これから予定ありますか?」
「いいえ。特にありませんけど。」

そう答えるとキンブリーは笑顔でアーデルハイドの手を取ったのだった。


「追々説明しますよ。取りあえず、すぐに着替えて来て下さい。」


そう言われて見れば、其処は女子更衣室の前だった。
そして、キンブリーもさっさと廊下の向かいにある男子更衣室に消える。
アーデルハイドはしばらく男子更衣室の扉を見ていたが、はっと我に返って女子更衣室に飛び込んだ。
理由は全く分からないが、一つだけ判る事がある。
この相手は待たせると怖いという事だ。







互いに同じようなタイミングで廊下に出て来た事でアーデルハイドは安堵した。
そしてやはり足早に乗せられた車。
いつもは自分が運転席でキンブリーが後部座席なのに、今日は自分が助手席に座っていてなんだか違和感も感じていた。


「さぁ少佐。ヒトを拉致した理由を説明して下さい。」
「拉致だなんて人聞きの悪い。なんなら監禁もしてあげましょうか?」
「謹んで辞退致しますっ。」


横目に彼女を見て笑うキンブリー。

彼の言葉はとても冗談には聞こえなかった。


「それは残念。」
「…勝手に残念がってて下さい。」


ぷいっと車窓の外に顔を向ける。
流れる風景からすると随分とスピードが出ている。

何をそんなに急いでいるのだろうか?
アーデルハイドは急ぐ理由をぽつぽつと考えた。

彼女のそれを見ていたキンブリーはヤレヤレと肩を大袈裟にすくめた。
そして、詰まらなそうに口を開いた。






 
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