F/Alchemist

□愛犬相談
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もうすぐ午後三時。
上官殿が無言で書類に向かい始めて二時間だ。
流石に休憩しても良い頃合いだ。

今日のおやつは私が最近見つけたお店のケーキ。
あのお値段でこの美味しさ!
お酒も入ってちょっと大人の香り!
といった代物です。
私は盆にティーカップを乗せてキンブリーが仕事をするデスクに向かう。


「一旦休まれませんか?」
「あぁ、もうそんな時間ですか。」


キンブリーは顔を上げ、壁に掛けられた時計を見る。
だいぶ長い間書類を書いていたのものだから肩が凝ったのだろう。
彼は首を左右に倒している。


「どうぞ。」
「すみませんね。」


カップと皿をデスクの隅に並べて置いていく。


「ちゃんと休憩を挟まないと駄目なんですよ。」
「そうですね。でも、それでは今日は残業になりますが…。」
「おやつ撤収。お仕事頑張って下さい。」
「冗談です。」
「ァ痛!」


一度置いた皿を盆に戻そうとして、その手をピシャリと叩かれた。
全く、笑えない冗談は止めて頂きたいものだ。
しかし、叩かれるとは思わなかったなぁ…。


「残業嫌です…。」
「私は構いませんよ。アーデルハイドとなら。」


少佐が構わなくても、私は構うのです。
胸中で溜め息をつきながら叩かれた手をさする。
横目に上官を窺えば、彼はどこか機嫌が良さそうだった。
例えるなら、鼻歌でも歌いだしそうな感じか。


「ご機嫌ですね。」


何が楽しいのだろうか?
私が疑問に思い尋ねれば、キンブリーは金色の瞳を細めて至極楽しそうに言った。


「最近犬を飼い始めたお陰ですかね?」


でも、笑顔がどこか意地悪そうに見えた気がしないでもなかった。

このヒトの笑顔って意の汲み方が難しいんだよなぁ…。
ニッコリ笑って営業、ニタリ笑って本音、否キレちゃうとか。
あれ?単純じゃん。

嘘はつかないヒトみたいなのだけど。
単純に見えて、なかなかどうして難しい。
もっと観察しとかないと地雷を踏みかねないぞ、私。

それにしても、こんな話題は初耳だった。
ワンコという単語を聞き逃すような私ではありません。


「どんな犬なんです?」


私がそう聞き返すと、盛大に溜め息をつかれた。
それはもう幸せがダッシュで逃げ出さんばかりにだ。


「ぇ、ぇ…?」


聞いちゃいけない事だったのだろうか。
それに一瞬目を丸くしたようだが、何に驚いたのだろうか。
まさか早速地雷かっ!?





 
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