F/Alchemist

□追われたなら走って逃走
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好きか嫌いかと聞かれれば、すぐに『嫌いじゃない』と言う言葉が口をつく。

ならば、好きなのか?
そうして聞き返されたら、言葉に詰まってしまう。



「嫌いじゃないけど、好きでもない?」



音無く言葉を口にして、それも違うなと感じた。









仕事の合間にそんな事をぼんやりと考えていた。
ペンを片手に頬杖を着く。

今この同じ部屋で、仕事をしている男に最近好きだと言われた。
というか、襲われた。
以来、露骨にセクハラされるようになった。
周りの友人にそれとなく相談してみれば、今まで気が付かなかった方がおかしいと説教された始末。
皆は上官殿の心情に気付いてたんだってさ〜…。


「…。」


鈍い私が悪いんかいっ!
気が付けば手にしていたペンが、ノートの隅でグルグルと動かされていた。
そのせいで書き上がっていた何重にも重なった黒い輪っか。
題して今の心境。
見所は悩みがループして途切れ無いだろう様。
ん、私芸術の才能も有ったか!?


「……。」


…虚しい。
思わず溜め息が零れた。
これは完璧に現実逃避である。
ペンをグルグルしていたって、悩みの解決にはならないのだ。

今の私の悩みか…。
当面の問題としては私がどうしたいのか、かな。

横目に悩みの元に視線を向けてみた。
キンブリーはいつも通り、書類束に目を通している。


あのヒトの事は嫌いではない。
自分は割とヒトの好き嫌いがハッキリとしているのでそれは確かだ。

上官として仕事は出来る。
彼は上層部の方々なんかとの付き合いもあるようだ。
このヒトに付いて行ったとして、軍人としても損は無いだろう。
私は別に、これ以上昇進したいとか望んではいないのだけど。

特に見た目も悪くはないし――…。


「……ん?」


アレ?
というかあのヒト、地位権力財力知性ってモノを一通り兼ね備えているんじゃない?
アレアレ?
あの年齢で佐官って事は、ヘマさえしなければ将軍の座を狙えるんじゃない?
アレアレアレ?
もしかしなくとも……お買い得物件?
無理をしてでも買っておくべき?


「…〜ッ。」


そんな所に食いついてどうする私っ!
私は己の浅ましさに頭を抱えた。
でも、そんな自分が大好きさ…。








 
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