F/Alchemist

□華は何処?
1ページ/4ページ








翌日は勿論休んだ。
その次の日も休んだ。
そして三日目。
今日も休むと連絡があったと伝えが来た。


「……。」


視線の先には空の席。
いつもの位置に在るべきモノがない。
それがとても落ち着かない。
部屋を飾る華が何処かに消えてしまった。








三日間、私は風邪で寝込んだ。
その間アーデルハイドは私のもとに通いながら、軍の仕事をこなしていた。
だが、最終的な決済は私の仕事なのだ。
結局、報告書などは溜まる。

その為、私達は定時を過ぎた今も仕事をしているのだ。



パラパラと紙を捲り、指定された場所に判を押してサインを入れる。
私の作業はこの繰り返し。

少し離れた席に腰を据えているアーデルハイド。
彼女はレンズ越しに机の上を睨んでいる。


「ぅ〜…っ。」


その口からは時折、こうして唸り声が漏れる。
原因は書いても書いても消えぬ紙の山と、捗らない作業のせいだろうか。


「また間違えた…。」


彼女はそう力無く呟いて、たった今までペンを走らしていた書類を脇に退ける。
そして、新しい紙を用意して書き直す。
この繰り返し。
着実に書き損じる回数だけが増えていた。


「少し休憩したらどうですか。」
「でも…。」
「能率が下がっているのに続けても、時間と資源の無駄です。」
「…はぃ。仰有る通りです。」


私の言葉に肩を落としてしょぼくれるアーデルハイド。
吐息を漏らして、眼鏡を外した両目でぼんやりと宙を眺めた。
遂には顔を両手で被い、机に伏せてしまう。
強く言ったつもりはないのだが…。
数分間そうしていたかと思えば、勢い良く顔を上げた。


「よしっ。」


それにしても、この違和感は何なのだろうか?
今日のアーデルハイドはどこか様子がおかしいかった。
私は遠目に再度ペンを手にした彼女を見る。


「…。」


そう言えば、微かにだが頬に赤みがさしている気がしなくもない。
…まさか、な。
胸中をよぎった不安に似た感情に私は動かされていた。


「アーデルハイド。」
「はい、もう間違えません、大丈夫で、っンですかぁっ!?」


己の名を呼ばれ彼女はこちらを振り向く。
長い前髪を指で退けて、手のひらを彼女の額に当てた。
私が触れると赤い瞳が驚きで見開かれ、少し置いてアーデルハイドは椅子ごと後ろに逃げた。


「少し、熱いですね。」
「き、気のせいですよ!ほら、部屋が暖かいから。」


そんな事で誤魔化される訳ないだろう。
仕様がないので私は、戸棚にしまってある薬箱を持ち出し彼女に体温計を差し出した。

ああ…。
これではいつぞやと逆である。




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ