F/Alchemist

□色付くまで待っていて
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優しくされて嬉しくない訳ない。
好意を寄せられて嬉しくない訳がない。
好きだと言われて…。
まだ、よくわからない。





私は何を延々と悩んでいるのだろうか。
今日で一体何日目よ。
…仕方がないか。
どうやっても、いつも一緒な訳だし。
ちょっかいを出される訳だし。

そんな悩みの原因は、一人お出かけ中。
余所の庁までキンブリーを送迎した私は、駐車場の車内でお留守番。
おかげで、暇な時間がたっぷり出来て悩みたい放題さ。
ああ、ストレスでハゲそう…。

私は腕を組んで、低い天井を見上げた。

別に、嫌いじゃないんだ。
優しいところもあるし。
…怖いけど。
ヒトをからかって遊ぶけど!
自然発火装置が付いた爆弾だけど!!
えぇ、嫌いじゃありませんとも。

だからといって、奴はこんな答えで満足はしてくれない。
いっそのこと、嫌いだと言ってみようか。
と考えて、悪寒がぞくりっと爪先からてっぺんまで駆け上がった。
…アカン、それは地雷だ。
しかも踏んだら最期、解除不可能で即死だ。


「あーもうっ。」


私は組んでいた腕を解いて、今度はハンドルに額を預けた。

自分に対して、彼は特別なのかと問えば、ある意味で特別だと答えが返ってくる。
だって彼は私の上官なのだ。
私の胸にあるこの気持ちは、上官に対しての忠誠心なのだ。

でもおかしい。
前に居た部署の上官にはこんな気持ちは抱かなかった。
脳裏に浮かぶのは、ヒトの良さげなおじ様の懐かしい顔。
白髪の髪に合わせた口髭に、黒縁の眼鏡がトレードマークだった。
階級は大佐。


「…。」


そりゃそうか。
前の上官は父親に近い歳で、しかも好きだなんて言われたりしていない。


「…じゃあ、これは忠誠心じゃないのかな。」


私の彼に対しての気持ち。
忠誠心じゃないのなら、何だというのだ。

何時もついて行かなきゃと思ってる。
実は、今も置いて行かれて気分が沈んでいた。
本当に毎度毎度、彼は一人で何をしに行くのだろうか。

気づけば、青い制服の胸元を握り締めていた。
ここしばらく、彼の事を考えていると胸が締め付けられる。
このままでは心臓が壊れてしまいそうだ。

まさかっ!?
これは新手の嫌がらせなのかしら…。
私が悩んでいるのを観察して楽しんでいるとか。
…いや、流石にそれは無いか。
 
堪らず深い溜め息が出た。
一人の男の事をこんなにも考えているだなんて。
これではまさに恋わずらいではないか。


「……。」


ん、恋わずらい?
え、恋わずらい?
自分の考えに顔が一瞬にして熱くなる。


「いやいやいや…っ!」


ないないないっ!
私は首を横にもげそうな勢いで振る。
でも、思い当たる節が…。
いや、でも…。


「ぇー…。」


なぜか、目の前の霧が晴れたような感覚があった。
…そんなの認めたくないっ。




 
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