F/Alchemist

□悪夢転じて
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お世辞にも天気の良いとは言えない朝。
執務室の扉を開けて中に入れば、先に着いていたアーデルハイドは私の顔を見て明らかに安堵した。


「おはようございますぅーッ。うあ〜よかったぁ!」
「…おはようございます。」


彼女が部下になってだいふ経つが、こんな出迎え方をされたのは初めてだった。
今までに無かった反応に、私はらしくもなくたじろいで眉を潜めた。


「一体何なんですか。」
「いえ、何でもないんですよぉ。」


胸に手を当て、良かった良かったと一人繰り返すアーデルハイド。
何が良かったのか。
そんな彼女をすり抜けて、一応己の席に着く。

ニコニコと安心しきった顔のアーデルハイドは机上からスケジュール帳を取り上げる。
笑顔の彼女は、では時間も時間なのでと本日の業務予定を説明し始めた。
しかしこちらとしては、先程の彼女の様子が気になってそれどころではない。


「アーデルハイド。そんな反応をされると、何があったのか気になりますよ。」
「そうですか?」
「そうですよ。」
「そうですか。」


アーデルハイドは天井を見上げ、少し唸った。
そして視線を私に戻すと、右の人差し指を立て神妙な面持ちで話し始める。


「…実は今朝、おっかない夢をみまして。」
「おっかない?」
「えぇ…とてもおっかない。それがですね、少佐に異変のある夢でして。」
「ふむ。」


夢で見た私の異変を気にするだなんて。
彼女にしては、随分と可愛らしい事もあるものだ。
私は自然と上がる口の端を手で隠す。
それならば気分も悪くない。


「私はね、普段通り此処に座ってるんです。」


彼女は己の席を指差す。


「それで、本を読んでいたら少佐が…。」


そこまで言った彼女の表情が途端に曇った。
立てていた指を唇に当てて、アーデルハイドは続きを言うのを躊躇う。


「で、私がどうしたんですか?」


あまりにも続きを口にしないものだから、せっついてみる。
それ程までに、夢の中の私は酷い有り様だったのだろうか。




 
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