F/Alchemist

□十二時の鐘は聞こえない2
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前回のあらすじ
お仕事上がりのお姫様。
無理矢理着飾らされて、強制的に舞踏会へ。








郊外に建つ屋敷では、既に宴が始まっていた。


「うひゃぁ…。」


アーデルハイドは口を開け、会場内を見渡す。
広く豪奢な建物自体に驚いただけではない。
人人人…。
しかも只のヒトではない。
将軍、佐官に文官…皆どこかで見たことある顔ばかり。
開けた視界の見渡す限り、皆著名な人物ばかりなのだ。


「流石に、大総統閣下はいらっしゃいませんがね。」


そんな彼女を見て、サラリと言ってのけるキンブリー。
そして、彼は左肘をさり気なく差し出した。
アーデルハイドは躊躇いながら、差し出された腕に己の腕を絡める。
それを確認したキンブリーはゆっくりと歩みを進めた。


「それでも壮観ですよ。」


人の波を掻き分け、彼はどこに行こうというのか。
進む先々で、アーデルハイドの目に入る大広間に集まった著名人達。
此だけの人物達を集められる主催者は、一体誰なのだろうか?
その人物はキンブリーとはどんな関係なのだろうか?
そんな事を考えながら彼女は歩いていた。


「アーデルハイド。何を考えているんです?」


右側に立つキンブリーが、覗き込むようにして彼女の様子を伺う。


「え?人酔いしそうだなぁ〜と。」
「何をらしくもない。貴女、ヒトは好きでしょうに。」


そんな彼女を横目にキンブリーは苦笑を浮かべ、やれやれと首を振った。
そして人混みに視線を戻す。


「しかし、こうヒトが多くては目的の人物を見つけられませんね。」
「どんな方です?」
「この夜会の主催で、私のパトロンですよ。」
「なるほど。」


錬金術は金食い虫だ。
否、研究職は皆どこかしら金銭面で困る事がある。
今は国家資格のお陰で、そういった悩みとは縁は切れているのだが。

アーデルハイドはもう一度屋敷の中を見渡す。
高級な調度品、屋敷自体も古いが手の込んだ美しい造りだ。
ここの主は、金銭面で支援して貰うには打ってつけな相手だったのだろう。
彼女は一人そう納得する。

それから視線を走らせ、周りにお金持ちらしい人を捜してみる。
しかし、皆が皆それらしい身なりだった。


「んー。大抵、主催者の周りは人だかりが出来てるもんですけどねぇ〜。」


彼女は言いながら、ヒールで高くなった踵を更に上げる。

 
「見渡せど人だかりばかりですね。さっさと挨拶を済ませたいのですが。」


しかし、小柄なアーデルハイドがいくら背伸びをしても、顔も知らぬ相手を見つけられる筈も無い。
その行動はキンブリーに無言で窘められた。


「まぁ、仕方がないですね。気長に探しましょうか。」


キンブリーは通りすがった給仕に声をかけた。
そして、給仕の持つ盆からグラスを二つ貰い受ける。
細長いグラスには、黄金色のシャンパンが満たされていた。


「どうぞ。」
「ありがとうございます。」


差し出されたグラスを受け取ったアーデルハイド。
彼女は笑ってキンブリーの持つそれと自分のを鳴り合わせる。
静かに重なった硝子は澄んだ音を立てた。





 
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