F/Alchemist

□紅蓮の狗
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アーデルハイド・ヤード。

性別・女性
階級・中尉
イシュヴァールとの合いの子。
二つ名を豺狼―サイロウ―という。



ヒトの間を行き交う彼女は、まるで犬のようだ。
誰かに呼ばれれば、耳を立て、尻尾を振って跳んでいく。
褒めた時など、激しく振られる尻尾が見える錯覚に陥るものだ。

それでも彼女は、初対面の人間には気を許さない。
常に人間を何処か警戒している。
己は犬だ、と見せかけているだけなのだ。
目前の者が獲物ないし敵になれば、素早く喉元に噛み付き、引き裂く。
彼女は二つ名の通り狼だ。

そして――
その素振りと二つ名から、彼女には通り名が付けられた。





「やぁ、元気かね?狼娘さん。」
「はい、日々健やかに過ごさせて頂いております。ですが、将軍閣下。一つ宜しいでしょうか?」
「何かね?」
「狼娘というのは止めて頂けませんか?」
「君の名前を呼ぶより、こちらの方が言いやすいのだけどな。」
「ならば、『豺狼の』と呼んで頂きたいのです。キンブリー少佐の事は『紅蓮の』と呼ばれるじゃないですか。」


とある将軍の執務室。

アーデルハイドのこうしたやり取りは、珍しいものではなかった。
私の共として上層部に顔を出せば、面白くない程上官達に声を掛けられるのだ。
そして『狼娘』と呼ばれる度、呼称の訂正を願い出ている。
なんでも、狼少年のようで嫌なんだそうだ。


「狼娘さん。」


懲りない将軍の呼びかけ。
上官の声だというのに、背後からムッとした空気が流れてきた。


「私は豺狼です。」


こう度々上官達に意見する彼女は、ある意味怖いもの知らずだ。
だが、私の部下としてはこうでないと困るとも思う。

こうしてアーデルハイドは上層部の人間に顔を覚えられていった。
ただし、まだ彼女には教えていない事が幾つかある。
この国の本質なども含めてだ。

まだ別の通り名がある――
というのもその一つだ。

その名がアーデルハイドの耳に入ったならば、きっと彼女は嫌がる事だろう。
それはもう、苦虫を大量に喰ったかのように、あの可愛らしい顔を歪めて。
ああ、それは少し見てみたい。

私は彼女についた、あの呼称に妙な優越感を感じていた。
それはきっと、あの女が自分の物だというささやかな、けれど大きな独占欲から来ているのだ。




 
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