F/Alchemist
□紅蓮の狗
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「じゃあ豺狼の。今度、一緒に食事でもどうだい?」
「いえ、ィ…っ!?」
つまらないやり取りを聴いていれば、上官が更につまらない事を口走った。
別にアーデルハイドが了承するとは思っていない。
だが、私は半歩後ろに立つ彼女を引き寄せ、口にしかけた言葉を遮るよう喋る。
「閣下。これをお誘いになるのでしたら、まず私の了解を得て下さい。」
アーデルハイドの細いがしっかりした肩を今一度引き寄せ抱くと、一瞬目を丸くして驚いた上官は声を上げて笑い出す。
「わはははっ。いや、これは失礼した。」
「いえ、差し出がましい事を申し上げました。」
私達が笑っているというのに、腕の中の女は大人しかった。
視線を落として見れば、アーデルハイドは顔を真っ赤にして固まっている。
「アーデルハイド。」
「はい…ッ!」
声をかけるとようやく動き出す。
だが、まだブリキ人形のようにぎこちない。
熟れた果実のように赤い頬に、同色の戸惑い虚ろう瞳。
あぁ、そんな表情をされると此方も意地悪をしたくなってしまうではないか。
つい私はそんな衝動を我慢出来ず、低い位置にある耳に唇を寄せ、低く囁いた。
「此処はいいですから、外で待って居なさい。」
「は、ぃ…ッ。し、失礼します!」
耳まで朱に染めたアーデルハイドは、将軍に敬礼をすると逃げるように扉から出て行ってしまう。
その小さな後ろ姿を見て、将軍はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべたのだった。