F/Alchemist

□好きなものには目がない
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その日は急な来客があった。
近くに用事があったからついでに、という理由でやって来られたのだ。
いくら上官でもアポイントメントぐらいしっかり取って欲しい。
唯でさえ貯まっている仕事が滞ってしまう。
客が手土産に持ってきた茶菓子に、アーデルハイドの淹れた茶で小一時間程過ごした。
つまらない接客だったが、それも美味い茶で飲み干せる。
しかし、その頃から私には気になる事があった。




アーデルハイドがカチャカチャと小さな音を立て、来客用の茶器を片付けている。
その背中を私はソファーに腰掛け眺めていた。


パタパタパタ…。


「…。」


彼女の尻に、白くてたっぷりと毛を蓄えた尻尾が見える。
しかも、盛大に振っている。
有り得ない。
自分が信じられず、私は眉間を指で押さえた。
数分置いて、再度アーデルハイドを見やる。
茶器を片付ける彼女の横顔は、眩しいくらいの笑みを湛えていた。
時折、鼻歌なども聞こえてきたりする。


「キンブリー少佐?」


視線に気付いたアーデルハイドは、微笑みながら私に視線を向けた。
それにあわせ、尻尾は緩やかに揺れる。


「どうかしま、ひゃぁっ!?」


手を伸ばして、アーデルハイドの尾てい骨の辺りに触れてみた。
指に触れるのは軍服の厚い布地と、弾力のある彼女の臀部。
いくら探っても、ふさふさしたモノは指に触れない。


「む!」


手に痛みが走る。
ピシャリと窘められたのだ。
視線を上げれば、耳まで朱に染め、肩を怒らせたアーデルハイドが目に入る。


「な、な、なにすんですか…ッ!?」


もう、先程確認したモノは存在しない。
当たり前だ。
生えてる訳が無いのだ。


「……はぁ、重症ですね、これは。」
「ひ、ヒトのお尻触っておいて、何その言い種!しかもため息って、私のお尻はもう残念手遅れ魅力無しって事ですかぁっ!?」


アーデルハイドは訳の分からない事を口走り、掴みかかってくる。
私が気圧されそうな位の、物凄い剣幕だ。


「手遅れって…。確かめようにも、貴女見せてくれないじゃないですか。」
「な、誰が見せますか!ちょ、やっ!?」


そこまで言うなら改めて確認してやろうと伸ばした手は、敢えなく叩き落とされてしまった。


「触るな厳禁っ!!」

 
と一喝。
アーデルハイドは私を突き放し、部屋から走って出て行ってしまった。
バーカバーカ!と捨て台詞を吐いてだ。


「…はぁ。」


私は一人残された部屋で溜め息をこぼした。
睡眠が足りていないのだろうか。
いや、睡眠不足だろうが、欲求不満だろうが、いくら何でもあれは無い。
バカバカし過ぎだ。
しかし、昼間からあんな妄想を見てしまうだなんて。


「参りましたね。」


それにしても、この中断された後片付けは私が続けるべきだろうか。




 
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