F/Alchemist

□好きなものには目がない
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十分程して戻って来たアーデルハイド。
一応、私がテーブルに纏めておいた茶器を無言で片付けている。
だが、戻ってからこっち、明らかに私を警戒していた。
常に私の射程外。
此方に背を向けなければ、一片の隙も見せない。
触れたのは初めてではないのに、あの反応は大袈裟である。


「アーデルハイド。」


試しに、デスク越しに声を掛けてみた。


「……何デスカ。」


駄目だ。
今近付いたら噛みつかれそうだ。


「いえ、なに。先程の行為は、貴女が随分と幸せそうだなと思った結果、起こった次第でしてね。」
「…幸せそうだから、お尻を触るんですか?」
「悪かったですよ。少し考えていたら、つい手が出ていたんです。」


私が詫びたというのに、彼女はうーっと下から私を睨め付けてくる。
これ以上どうしろと言うのだ。


「アーデルハイド。貴女のお尻は残念でも、手遅れでもないし、魅力は十分にありますよ。」
「ぐぅっ。…そう、ですか?」
「そうですよ。ですから、今度ゆっくりと触…。」
「駄目却下っ!」
「せめて最後まで言わせて下さいよ。」
「言わない聞かない!うわーん!!」


まだ混乱していたらしい。
彼女は半べそをかきながら、茶器を抱えて出て行ってしまった。
今度はバカ変態!と私に言い放ってだ。
私に非があるにしても、その言葉はないではないか。
好きなヒトに触りたいと思う気持ちが変態とは言葉が過ぎる。

結局、その日はずっと私は警戒されっぱなし、彼女は混乱しっぱなしだった。







そんな事があったのも忘れかけたある日。
予定は外回りが主だった。
普段は車で移動するのだが、

「近いし、天気も良いので、たまには歩きませんか?」

とアーデルハイドに提案され、私達は肩を並べて街を歩いていた。
そして今、用事を終え帰り道、私の隣のアーデルハイドはまた犬になっている。
尻尾は生えてはいないのだが、雰囲気がそうなのだ。
上機嫌で纏うのは、ほわほわと締まりのない空気。
今の彼女を例えるならば、骨をくわえた犬。


「幸せそうですね。」

 
私は前回と同じ轍を踏まない為に、率直に尋ねてみた。
アーデルハイドは問い掛けに小首を傾げた。


「幸せというか、んー…。」


呟き、頬に手を当てて考え込む。
そして幾度か瞬いて、はにかんだ。


「うん。そうですね、幸せかも。」
「そんなに好きなんですか?」
「え?」
「それ。」


私は少し下を指差す。
指の先には、アーデルハイドの手に収まる小さな菓子箱。
出先の人間した貰い物だ。
その時の彼女の喜びようときたら、もう何とも言えない。
いつか、飴玉一つで誘拐されてしまうのでは?と妙な不安が胸に浮かぶ程だった。




 
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