F/Alchemist

□不明瞭なシンジョウ
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コンコン


執務室の戸を叩く音。


「はい、どうぞ。」
「こんにちは。」


来客は見知らぬ女性士官だった。
階級は……少佐だ。


「こんにちは。キンブリーなら出てますよ。」
「あら、そうなの。」


私が知らぬ人間なのだから上司に用事なのだろう、そう踏んだのだが当たりだったようだ。
部屋の主の不在に、女性士官に明らかに残念そうな表情を浮かべる。


「もうしばらくすれば戻って来る筈ですよ。」


時計とスケジュールを照らし合わせて、お客に告げた。


「…それじゃあ、待っていてもいい?」
「ええ勿論。でしたら、お茶でも如何ですか?」
「うん、頂こうかな。」


お茶の用意を始める私。
先日買ってきた茶葉を使うチャンス到来だ。
ウキウキしながら湯を注いでいると、背後から視線を感じる。
突き刺さる、否ねっとりと粘着質な視線に堪らずにプツプツ鳥肌が立った。


「…少佐殿。私に何かついていますでしょうか?」


振り返れば、お客様がまじまじと此方を観察してらっしゃった。
女性が私なんか見てても面白く無いだろうに。
男でもだけど。


「ううん。貴女、可愛いなぁと思って。」


気だるげに、だけど真剣な目で言われ血の気が引く。
それはもうザァーッと。


「ま、誠に申し訳ありませんが…ッ!私、ソッチの気は持ち合わせておりません!!」


思わず胸の前でクロスガード。
変人の知り合いは、一癖も二癖も持ち合わせた人物か!?
なんて恐ろしい類友の輪!


「私だって無いわよ。」


やーね、と彼女。
なのに、その後もじーっと私を眺めてらっしゃる。
こう、獲物への狙いを定めるように、上から下に舐めるように。
でも、どこか剃刀のような鋭い…そう、敵意のようなものも混ざっている気がしなくもない。
まぁ、私の勘違いかもしれない。
けれど、この視線には耐えられない…っ。


「ぅー…。」


少佐、早く帰って来て!




 


願いが届いたのか、キンブリーは十分もせぬ内に戻ってきた。
予定よりもかなり早いお戻りだ。
もしかしてテレパシー?
…なんてモノはナイナイ。
私はティースプーンを持つ手を振った。

只今、お茶の用意中。
キンブリーは帰ってきて、来客に大層驚かれた。
そして、早々に彼は客と差し向かって話し始めたのだった。

にしても女性のお客様、しかも私用だなんて珍しい事もあるものだ。
耳に入る会話も随分と砕けてる。


「…。」



ポットに茶葉を投げ込むように入れる。

実は少々気疲れしていた。
彼女にキンブリーを待っている間、聞いてもない情報を聞かされたのだ。
自分とキンブリーは同期生だとか。
前は同じ所で働いてたとか。
彼の好みだなんだと、惜しげもなく話して下さった。


「聞いてないっての。」


そう毒づきたくなる位聞かされた。
なんだったのかな、あれは。
でも、まぁ二人は仲良しさんという事か。

途端に、胸の奥が痛んだ。


「…?」


違和感を疑問に思い、胸に手を当ててみた。
トクトクと手のひら越しに心音が伝わるだけだ。


「んん?」


異常は無い。
特に気にせずキンブリー用の茶の作業を続ける事にした。
ポットに湯を注ぎ、砂時計を逆さにする。
サラサラと落ちていく砂。
邪魔するのは悪いから、サッサと退室してしまおう。
砂を眺めながら考えていると、


「すみませんが、アーデルハイド。席を外して貰えませんか?」


この一言だ。
しかも、あしらうように言われた。
元々、この茶を淹れ終わったら外すつもりだったのですが。
先にそうやって言われてしまうと、なんだか癇に障る訳でして。
だからか、


「気が利かず、申し訳ありませんでした。積もる話しもあるようですので、私は失礼いたします。」


なんて、嫌味っぽい台詞を吐いて部屋を後にしてしまった。



 
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