F/Alchemist

□お見合い話
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只今、この部屋は危険区域です。
何故なら、部屋の主である爆弾のスイッチが入りそうだからです。
今回、私は自らこの起爆スイッチに指を掛けたんだけど…。




私はデスクの前に休めの姿勢で立っていた。
デスクを挟んで向かいには、椅子に浅く腰掛けたキンブリー。
とても機嫌が悪くてらっしゃる。
彼はかれこれ数分、黙って机上を睨み付けていた。


「…。」


視線の先には一枚の紙。
今し方、私が提出した休暇願いである。


「アーデルハイド。すみませんが、もう一度言って貰えますか。」
「今週末にお休みを下さい。」
「そこではなくて、その後です。」
「お見合いしに行くんです。」


お見合いと口にした途端、室温が下がった。
緊張感に身が竦む。
いつもの私なら駆け足で逃げ出してる空気だ。
けど、今日はそうもいかない。


「…聞き違いではなかったのですね。」


頭を振って、キンブリーは深い溜め息をつく。


「まぁ、そんな訳なんでお休み下さい。」


それでも、私は平静を装って用件を告げた。
返答はない。
ただ無言で睨め付けられ、背筋を冷たい汗が伝う。
キンブリーは私から目を離さぬまま、ゆらりと椅子を立つ。

カツン――

彼の踏み出した靴音に反応して、自然に私の足が後ろに退ける。
たったこれだけの行動で、私の虚勢が崩されてしまった。


「は、話を聞きましょうよ。ねっ?」


覚悟はしていたけど、やっぱり怖いものは怖い!


「勿論聞いてあげますよ。」


鋭い視線のまま、普段と変わらぬ、否それ以上に柔らかく発せられる台詞。
それを耳にして、ドッと額に冷や汗が吹き出した。
私が一歩下がれば、キンブリーが一歩前に出る。
それを何度繰り返しただろうか。
やがて背中に堅い物が当たり、私はそれ以上退がれなくなってしまう。
部屋の扉はすぐそこに在るのに、ひどく遠い。
男はそろりと手を伸ばしてくる。


「ッ!?」


捕らえられるのかと身が堅くなる。
だが男の腕は私の両脇を抜け、壁に静かに着けられた。


「さぁ、言ってみなさい。」


目の前にはキンブリー、背後には壁。
逃げ場も逃げ道もない。


「量刑は言い訳の内容次第で軽くしてあげます。」


私を追い詰め捕らえた男は目を細め、冷えた声でそう言い切った。


「……。」


このままじゃ確実に銃殺刑だ…ッ!
 
私はカタカタ震える体をどうにか落ち着かせ、己の弁護を始めることにした。



 
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